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こなた。こなちゃん。そう呼んでくれるトモダチが出来て約3ヶ月。最近は泉さん、と呼んでくれるトモダチもできた。 「ふぅ・・・」 「何よ、ため息なんてついちゃって。」 「んー、何でもないよ。」 中学校に通っていた時には想像していなかった今。あの時は、トモダチって言える人は何人いたかな? 「・・・私が夕飯当番だからか?」 「・・・それもある。」 「オイっ!それは偏見だぞ!?私だって上達してるんだから。」 「冗談だよ。」 そう言いながらも私の鼻をかすめる焦げた匂い。かがみめ、鮭を焦がしたな。 「何かあったら言いなさいよ。私で良かったら相談にのるわよ?」 私の記憶では、こんなセリフを言うのはアニメのキャラだけだった。 現実では聞いたことがなかった。だから、私の口からはため息がでる。 「ふぅ・・・じゃあ、夏休みの宿題を・・・」 「それは断る。ていうか、まだ夏休み始まってないだろ?」 「予約だよ、予約。」 「意味が分からん。ギャルゲーもいいけど、いや、ホントは良くないけど・・・宿題は自分でやりなさい!」 頭の中を捜して見付かった記憶。そこに映るのはお父さん。 一生懸命、世話をやいてくれるお父さん。一緒にゲームしてくれるお父さん。ギャルゲーを一緒にやってくれるお父さん。 「明日が終業式だっけか?」 「そうよ。午前中で終わりだったはず。だからお弁当は無し。良かったわね、早起きする必要なくて。」 「そだね。今日はゲーム漬けかな。」 「じゃーさ、この間のシューティングゲームやらない?少し練習したんだ。」 「いいよー。」 でも、今私に刻まれるメモリーに映るのは、かがみ。私を怒ってくれる。私を気に掛けてくれる。私に笑ってくれる。 「ふっ。かがみが負けたら夏休みの宿題見せてね。」 「それは断る。」 だから私は笑ってしまう。かがみにつられて。幸せを感じている、自分が、おかしくて。 ‐‐‐‐ 「でね、間違って酢の物にバルサミコ酢使っちゃったの・・・」 「どんだけよ?」 「むぅ。つかさにもドジっ娘属性があったとは。」 「あ、あれゆきちゃんじゃない?」 「ホントだ。おーい!みゆきさーん!」 早くも夏の日差し。綺麗に咲き誇っていた桜に変わり、今は緑の葉が木々を覆っている。 今校門の近くに映える桜色の髪。羊のようにモフモフしている。 私の声を聞いて振り替える女性。私達に微笑みかける姿は、高貴なお嬢様のようだ。 「おはようございます、泉さん、つかささん、かがみさん。」 「おはよー、ゆきちゃん。眠そうだね?」 「おはよ、みゆき。遅くまで勉強?」 「勉強ではないんですが・・・虫歯がまた痛みだしまして。気にしていたらいつの間にか夜中だったんですよ。」 「あー!分かるかもそれ!虫歯って気になるよね?」 「歯医者に行けばいいのですが・・・お恥ずかしながら怖くて行けないんですよ・・・」 「みゆきさん、あなたって人は本当に得だよね。」 「もっと一般人に分かるように説明してくれ。」 つかさとみゆきさん、そしてかがみ。その中を歩く、私。 つかさとみゆきさんの緩い会話。私のディープなコメント。かがみのツッコミ。 そして、かがみと二人で暮らす。これが今の、私の、普通。 「あ、そういえば午後どうする?みゆきは暇?」 「はい、今日は特に用事はありませんよ。」 「じゃあさ、皆でどこか行かない?つかさは?」 「私賛成!4人でどこか行こうよー!いいよね、こなちゃん?」 嬉しい。楽しい。最近はそんな感情ばっかり。これが『トモダチ』。 だから私は、分からなくなる。戸惑う。頭が真っ白になる。 「うん。いいよ。」 「じゃ、決まりね。皆行きたいトコ考えといてね。それから・・・」 かがみの声を聞きながら、私は扉を閉める。私は器用なのかもしれない。 そして、いつものように、自分に話し掛ける。私は本当に皆の、かがみの友達なのかな? ‐‐‐‐ 「えー、この式がXの解になるので、右辺の式を整理してみると・・・」 教室から見える空。ゆらりゆらりと動く雲。あの雲はチョココロネみたい。 チョークが生む音。黒井先生の声。重なるように響く飛行機の飛ぶ音。ぼーっとしていても私の中で反響する。 それと共鳴するように、3つの声がする。 『こなちゃん』 『泉さん』 『こなた』 みんなと仲良くなればなるほど、分からなくなる。どう接したらいいんだろう?どう笑えばいいんだろう? どうすれば、つかさ、みゆきさん、そしてかがみに伝えられるのだろう? 私が、皆といて楽しいと思える事を。皆にも私といて楽しいって思って欲しい。 大切な友達だから。 「以上の事からXの解は3ちゅー事になる。ここ、テストに出すでー!」 でも、大切な友達だから、いつも皆と一線を引いていた。勝手に壁を作っていたんだ。 オタクは隠したくなかった。皆を騙しているような気分になるから。 嫌われたくない。そう思うから、私は変われない。なくさない為に、得ようとはしてこなかった私。 無機質、無表情、無関心。ずっと装備していた鎧。外したい。でもやっぱり、恐がっている私がいる。 「前回のテストで悪い点とったヤツ、覚えとき!・・・泉?おい泉!」 いつも、話し掛けてきてくれるつかさ、みゆきさん。そしてこんな私を、一番に受け入れてくれたかがみ。 だから、変わりたい。本当に大切だから。初めて、欲しいと思った『友達』。 装備を外して、壁も境界線も壊して、生身で皆と友達になりたい。 ううん、なりたい、じゃダメだ。なろう。怖くても、一歩を踏み出すんだ。頑張れ、こなた。 「泉っ!ぼけっとすな!」 「ふぎゃっ!」 ‐‐‐‐ 「なぁ、こなた?この状況を説明してくれないか?」 「あ、私が説明させていただきますね。私とつかささんは特に行きたいところがなかったので、今日は泉さんに任せたんですよ。」 「そーゆう事。私はここに来たかったんだよ。何故ならば、私がオタクだからだよ。」 「だからって・・・女子高生4人でアニメイトに来るか普通?」 やっと終わった1学期。明日は休み。今日は何をしよう? いつもだったら、そんな事を考えてたのに、今はそんな余裕がない。 ちょっとだけ震える体。小さな体から振り絞って勇気を出してみた。みんなをアニメイトに。それが苦肉の策。無い頭を絞って考えた結果。 「私は賛成だよ!だってオモチャ屋さんに来たの久しぶりだもん!」 「つかさ、ここはオモチャ屋じゃないよ。日本国内で最大のアニメグッズの販売店なのだよ。」 「なんだか子供の頃に戻ったような気分ですね。」 「あ、ケロロ!見て見て!ゆきちゃんケロロ軍曹って知ってる?」 「名前だけは聞いたことがありますよ。可愛いですね、このカエルさん!」 アニメイトには似合わない二人がはしゃぎながらフィギュアを見つめる。 「ったく・・・みゆきまで夢中になって。」 「嫌、だった?」 「え?」 得意になっていたのかもしれない。ギャルゲーを一緒にやったから。かがみは受け入れてくれる。そう、勝手に決め付けていた。 「ごめんね、無理矢理で。でもね、つかさにも、みゆきさんにも、かがみにも、本当の私を見て欲しくて・・・」 「本当のこなた?」 「嫌われてたくないけど、でも・・これが私だから・・皆とは、かがみとは、別世界の人間だよ。」 嫌われたくないから、怖いから、大切だから、初めてだから。 だから、私を、曝け出したい。すべてを皆に。失敗しても後悔しない。 「それでも、今更だけど、『友達』になってくれませんか?」 言いたい言葉。伝えたい想い。これを皆に、かがみに届けられないほうが、ずっと後悔するから。 ‐‐‐‐ 沈黙が続く。店に流れるアニソン。でも今はよく聞こえない。聞こえるのは私の心臓の音だけ。 沈黙に耐えられなくて、かがみの顔を見る。そこには、いつもの凛とした笑顔があった。 「バーカ!私はあんたに、嫌だ、なんて言った?」 「・・・言ってない。」 「だったら、それでいいじゃない。私達もう、友達、でしょ?それに・・・私は、つかさも、みゆきも、アンタがオタクだって知っていて、アンタの傍にいるのよ?言っている意味、分かる?」 頬がどんどん緩んでいく。耳が熱くなっていく。同時に、鎧が音を立てて崩れるのが分かった。 やっと、始まるんだ。 「ナイスツンデレ!」 「う、うるさいっ!ツンデレとか恥ずかしいから言うなっ!」 「いいじゃん、本当なんだからさー。かがみは萌えるよ?」 「うるさぁーいっ!」 その瞬間、おでこに鈍い痛み。かがみのデコピンが私のおでこを打つ。 「いった!かがみん酷いよ・・・」 「ふん。仕返しよ!」 怒った口調。それでも、かがみは満面の笑みで私にあっかんべーをした。 「あ、その表情もなかなか萌え・・・」 「またやられたいのか?」 「お姉ちゃん!ちょっと来てー!これ見てよ!」 「ホラ、つかさが呼んでるよ!」 「運の良い奴め。また言ったら宿題見せないからなっ!」 そう言いながら、つかさとみゆきさんの元に駆け寄ってゆく。 デコピンされた場所がやけに熱い。でも、痛くない。熱い場所を私は優しく撫でる。 「へへ・・・」 零れ落ちる笑み。今の私の顔、どうしようもなくニヤニヤしているんだろうな。でも、それが嬉しい。 「こなたー!ちょっと来てよ!」 「色々教えて欲しいのですがよろしいでしょうか?」 「こなちゃん、早くー!」 初めて得た物。その代償はおでこの細胞。余韻に浸る暇もなく、友達が私の名前を呼ぶ。 「うん!今行くよ!」 始まった夏。そして、鎧のない、無防備な私の冒険が始まる。 でも、もう怖くない。みゆきさん、つかさ、そして大切な同居人、かがみ。皆がいるから、大丈夫。 これからは、1秒もムダにできないストーリー。 「ありがと、よろしく。」 5話 甘過ぎココアの作り方へ続く コメントフォーム 名前 コメント (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-01-04 16 28 41)
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こなたとモヤモヤ なんだろ?なんかモヤモヤする。 ベッドに寝そべり、寝ようと思ったけど眠れない。 まぁ、本当は原因なんてとっくに分かってるんだけどね。 まったく、なんでこう最近はかがみの事ばっかり頭に浮かんでくるのか…。 おかしいなぁ、私にはそういう趣味は無かった筈なんだけどな~…。 いっそかがみに告白してみる?いや、やっぱ駄目駄目。断られるに決まってるじゃん?なにを考えてるんだい私よ。 「まいったなぁ…明日起きられるのかなコレ?」 時間はもう深夜。 そういえば、なんかアニメは…あ~ハイハイやってませんね分かってましたよ。 「あ~…まぁ、アレだよ。このままでいいでしょ?」 そう、私が何もしなければ誰も傷付かない。私も、かがみも。 いやいや、そんなん嘘っぱちでしょ?ただ単に、拒まれたくないだけじゃないの?ただ…私が傷つきたくないだけでしょ? うん、否定出来ないネ。そこは素直に認めとくけど、それなら私はどうすれば良いと? このままでいれば、ゆる~い空気の中でずっと馬鹿やってられるし…ホラ、やっぱり変える必要も、変わる必要もない! 今までがそうだったし、これからだって今まで通り出来るよ。 ハァ…やっぱ今のまま…か。それはそれで苦しいけど…でもいっかな? ―――翌日 「お~すこなた。あんたがこんな早く起きてるなんて、なんか意外ね?」 「んぁ?なんだかがみんか。つかさは?」 「つかさは今日休み…ってなんだ?私じゃ不満か?」 犬歯を出して、頬を引き吊らせるかがみ様。 「おぉ恐っ!かがみ狂暴~♪」 「朝っぱらから大声で変な事叫ぶな!」 ……やっぱり、コレで良い。 いつも通り、こんなやり取りをやってれば…。…って、かがみ。なに驚いてんの? あれ?ていうか視界が… 「こ、こなた?アンタどうしたの?」 はい?それ、私が訊きたいんだけど。 本当に私はどうしてしまったんだろうか? 「あ…いや、私は別に本気で怒ってる訳じゃないのよ?ただ、いつものノリっていうか…ねぇ?」 かがみが慌てながら必死に取り繕ってくれてるけど、私の視界は歪んだまま。 あぁ、私、泣いてるんだ。 何で?何でだろ?あ、そっか…どうしようもないくらい、好きになっちゃってたんだね…かがみの事が。 「ちょっと…目にゴミ入っただけだよ」 私の嘘吐き…。 続く? コメントフォーム 名前 コメント 続かせるんだー!! -- 名無しさん (2023-06-02 11 21 06) 続けー!! -- 名無しさん (2010-07-29 12 19 02) 続きをー モ ヤ モ ヤ -- 名無しさん (2009-01-04 03 48 00) おいおい、『続く?』じゃなくて『続け!!』です。 作者殿、お願いします。 -- kk (2009-01-03 18 37 16)
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【第18話 イケメンの恋人】 「ほら、まだゴールじゃないわよ!」 「も、もうダメです……」 かがみはこなたに廊下で歩行訓練をさせていた。壁際の手すりにしがみついたまま動けないこなた。 「もう、やめて……怪獣さん」 そのままへたり込む。 「トイレくらい行けないでどうするのよ!」 「無菌室の頃はお風呂もトイレも何でも手元にあってよかったのに……」 「ハイハイでもいいから前にすすみなさい!!」 「まるで幼児じゃん」 「文句言わずハイハイで進みなさい!腕や肩の筋肉だって弱ってるんだから」 かがみはパチパチと手拍子を叩く。 こなたはしかたなく四つんばいになりハイハイしはじめる。つかまり歩きでは到底これ以上いけないからだ。 「ハイ、ハイ、リズムに乗って。ほら、WCの看板が見えてるでしょ、あそこまで歩くのよ。それともここで漏らすつもり?」 とはっぱをかける。 こなたはゼイゼイ息をしながら、カタツムリのような速度でハイハイする。 「あ……無菌病棟への廊下だ」とこなた。 WCの手前で廊下が二つに分かれていた。奥に、あのとき二人が別れた無菌病棟の隔離扉が見える 「戻りたい……私、死ぬまであそこで暮らしたい」 こなたは遠い目で扉を見つめる。 「……誰にも邪魔されず、疲れずに、漫画読んでアニメ見てゲームして……そのまま死にたい……」 無菌病棟へと体を傾ける ふらついて横倒しになりそうになったこなたの背中にかがみはしがみついた。 「……!!」 磁石のようにこなたを後ろから抱きしめて話さないかがみ 「そっちは、違うでしょ!行くのはあっち!!!」 かがみはトイレのほうの廊下を指差した。 「行っちゃ、ダメ、なんだから……」 かがみは声が震えだして止まらなくなる。 「絶対……そっちは、ダメ……なんだから」 「……怪獣さん、ひょっとして泣いてるの?」 「な、べ、別に、泣いて、ないし!!……」 何度も涙をぬぐい鼻をすするかがみ。 「そ、それよりさっさと歩きなさいよ!まだゴールは先なんだから」 「怪獣さん、それってツンデレってやつ?」 「う、うるさいな」 「……あれ、なんか。胸の奥が、ほんわかと……ねえ怪獣さん、これがもしかして、萌えって言うの!?お父さんがよく言ってるんだけど!」 「うっ……そ、そう、なんかよく知らないけど……あとそれから、私のことを怪獣さんって呼ぶのは止めなさいよね」 「なんで?じゃあなんて呼べばいいの」 「ちゃんと私にも柊かがみって名前があるんだから。そうねえ……じゃあ……」 「?」 「かが……みん、って呼びなさい」 かがみはドキドキして頬を赤らめながら小声で呟いた。 「萌えない呼び方だねー」 なぜかグサリと来た。 「今の表情や仕草は萌えたけどねー。かがみんって馴れ馴れしすぎじゃん。怪獣さんにはふさわしくない。まるで恋人みたい」 「……」 ようやくトイレまで来る。 「て、手伝うわよ。そ、その、用足し……」 「いいよ……何照れてるの?女の子どうしなのに変だよ」 そ、そうよね……と返事し、かがみは個室のドアの外で待つ。 「ねえ、怪獣さん、さっきの『かがみん』って呼び名なんだけど」 ハイハイをして病室に戻りながらこなたはいった。 「な、なによ」 「恋人に、そう呼ばれてたの?」 「……あ、あう、……その」 「どんな人だったの?ねえ、かがみ」 「……」 「ねえ」 「そう、……恋人よ。ええ」 かがみは小さくうなずいた。 「へーどんな人?怪獣さんの恋人ならやっぱりモスラみたいな人かな?」 ね、ね、と、じっと見つめながら催促するこなたを止められず、かがみは伏し目がちにポツリ、ポツリ話し始める。 「まあ、ある意味、一般人が見たらまるで芋虫を見るような目つきになりそうな性格だったけど……」 「すごそうな人だねー」 「あんたのお父さんそっくりな性格だった」 「うわ……ヲタなの……キモイ……」 「ギャルゲにはまり出してる身で何を言うか!」 「で、その人、イケメン?」 「……ま、まあ、イケメンに、なるのかな?」 ヲタでイケメンか……うーむ、と考え込むこなた。「で、イケメンなところにほれたの?それともまさか、……よもやヲタなところにほれたの?」 「……よくわからない」 「??」 「でも、最初は普通の変人な友達だった。でも、最後は……全部好きになった」 「へー友達から恋人。よくあるパターンだね。クラスメートかなんか?キスした?」 「別のクラス。……つかさの紹介で知り合ったの。キスは……私からは、できなかった」 「ってことはヤれなかったんだね。フラグ立ててないから」 「……この世に生まれた瞬間にフラグを潰しちゃったからね」 「?」 「な、なんでもない」 「でも、まだきっとフラグは立つよ怪獣さん。どんな隠しルートがあるか分からないし」 「……死んじゃったから。そいつ」 「……」 「あんたと同じ病気でね。病室でアニメ見てゲームやりまくって、コミケ行きたい行きたいってさんざん言ってたくせに、最後は幽霊になって私に手を振ってるの。あはは、ほんと笑っちゃうわよね」 「……怪獣さん、ツンデレど真ん中だね。笑ってるのに涙でてるよ」 「まったく、あいつったら、いい年してお母さんと一緒にいるなんて。しかもあの世で。……まったく……まったく、もう」 「その人もお母さんいなかったの……ふーん、私と一緒だね」 こなたはハイハイを止め、少し目を伏せた。「どんな感じなんだろうね、お母さんっていうのは」 「……」 この子も、やはり、母親がなにかってのは知らない。 「……今まで隠してたけど。あんたにはお母さんがいるわよ」 「ほんと?生きてるの?どこ?」 「この私よ!!!!」かがみは自分の胸をバンと叩いた。 「そしてあんたは私とそのオタクなイケメンの娘!!!」 こなた育成計画を思いついてから、こう宣言することは決めていた。 血液型は一緒なんだから。 少なくとも、泉家よりはこの自分の方が近い血を持っている。 唖然呆然硬直自失するこなたが見ている。 「今日からお母さんと呼びなさい、いいわね」 同い年なのになんでお母さん?血のつながりは?高校生なのに堂々中だし!?お父さんって言ってるあのヲタク男は何者!? などというこなたの突っ込みに強引に反撃しながら、 「母親なんだから当然でしょ!!」と、その日からかがみはこなたの病室で暮らしはじめた。むろん受験勉強も当然そこでやる。 かがみは巨人の星ばりにギプスをつけてスパルタ猛特訓…… させる間もなく、こなたはあっというまに二本足で立って、ふらつきながらもなんとか歩けるようになった。 運動神経がよいので筋力アップも早いのだ。 「トイレくらい往復できるよ……」 「いいから、帰りはおんぶする」 こなたを背中に乗せるかがみ。 (もうちょっと手のかかる子でもいいじゃない……まったく) 「そういえばさ……怪獣さん」 「『お母さん』!!!」 「お、おおお母さん(汗)」 「なに?」 「コミケって何?イケメンのお父さんが好きだったんでしょ」 「そ、そうね……そ、その、素人が描いた同人誌を売るイベントよ」 「面白いの?なんか下手くそな漫画がいっぱい集まってそう」 ま、まあ、たしかに島中の多くのサークルがそうね…… 「そんな町内会館でひっそりやってそうなイベント、10人くらいしかこなさそうじゃない?なんで好きだったの?」 「町内会館どころじゃないわよ。60万人以上来る世界最大のイベントよ」 「へえー……マジ? 一体どこからそんなに人間が発生するんだろうね」 「ほら、ここから見えるビッグサイト。あそこを全部借り切ってやるのよ」 「……」 こなたは廊下の窓から見える逆三角を見つめた。 「……お母さんの好きな人が好きだったやつかあ……そんなにすごいんだ」 同人関係の話をしたと耳にしたそうじろうは嬉々として自宅からB5版の薄い本の束を大量に持ってきた。 「やっぱり素人が作ったショボイ本だね。パンフレットみたい。しかも聞いたこともない印刷会社」 ぺラペラと同人誌をうちわのようにあおぐこなた。 「これで500円?ぼったくりもいいところじゃん」 こなたは投げやりそうにページを開く 「キモッ!!あんた、いい年こいてこんなの見てるの?」 「頼むからそういわないでおくれよこなた……」 「著作権侵害じゃん」とこなたはドン引きした。 「しかもエッチだし……うわ、こんなことまで、おお……ほう……ふむふむ……」 3冊目を読む頃には、もうこなたの目の色が変わっているのが分かった。 「適応度早すぎ!!!!!!」 「漫画、アニメ、ゲームを経て、やっと同人までたどりついたか……こなた育成計画は順調だな」 かがみとそうじろうはウンウンよしよしとうなづいた。 「あとは、せめてこの数値さえよくなってくれれば……」医者から渡された検査結果を見てつぶやいた。 ───肝臓の数値が、急速に異常値だらけになっていた 第19話:コミケへ行こうへ続く コメントフォーム 名前 コメント
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私はこなたの家にいた。 「かがみん、大好きだよ。」 「えっ?こなた?」 急に言われた言葉に私は困惑する。 「え?じゃないよ。わたしはかがみんことが世界で一番大好き・・・だ、だめかなぁ?」 こなたは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。 こなたが私に愛の告白をしている? 私はずっとこなたが好きだった。恋人同士になりたいと、ずっとそれを夢見てきた。 それが今、私の目の前にある。 「こなた、わたしもずっと前から大好きだったよ!」 「かがみん、大好き!」 こなたが私にダイブするように抱きついてきた。 そんなこなたをいとおしく思い、私もこなたを強く抱きしめる。 小さくて、やわらかくて、あたたかくて、昇天しそうなほど気持ちがいい。 すると、こなたが、うるんだ瞳で私を見上げてきた。 こなたのかわいい唇が私に迫ってくる。 もしかして、これって・・・ 「こなた・・・」 私はこなたの唇に私の唇を重ねた。 「かがみん。」 「んぁ・・・こなた・・・」 私とこなたの口付けは次第に激しくなる。 「こなた・・・こなた・・・」 ああ、こんなことって、本当に夢みたい。 ・・・夢? ・・・あれ? さっきまで高校にいたハズ。 私は私服を着ている。自分の服装も制服のハズ・・・ 「んぁ・・・夢か・・・」 こなたとの事を考えてたら眠っちゃってたのか。最近寝不足だったしね。 「って、ぬぉ!」 目を覚ますとこなたがあごだけ机に乗せて私を見ていた。 「やぁ、かがみん、お目覚め?」 「な、なんなのよ?」 こなた、なんで? 「なんなのって、待ってたんじゃん。むぅ~」 「なんで?つかさとみゆきは?」 「もぅ、かがみんは寝ぼけてるんだね。二人は先に帰ったよ。みゆきさんは家の用事でつかさは夕食の食材を買いに行くって昼休みに言ってたじゃん。」 「そっか・・・」 「だから帰ろっ」 「うん。」こなたと二人きり、久しぶりかもしれない。 「でも、かがみんの寝顔はやっぱ、かわいいよねぇ~、いいもの見せてもらったよ」 「なぁっ!なに言ってんのよ!」 「照れない照れない。」 「うぅ~うっるさい!」 校舎の外に出るとどんよりと湿った冷たい空気が頬をなでて来た。 あと、十日もしないうちに十一月は終わり、十二月に入る。 もうあと、四ヶ月しかない。 「寒い~。ねぇ、かがみん、コートの中に入れて~」 「なにいってんのよ。あんたコートきてるじゃない。」 「いいじゃん。」 こなたがギュッと抱きしめてくる。 「なっ、ちょっと・・・」 私はさっきの夢を思い出して赤くなる。 「あったかい~、ん~」 こなたは私のコートに頬をすりすりしている。 「ちょっ、やめっ、そこにいると、あ、歩けないからさ・・・」 こなたは真正面から抱きついているので動けない。 「んぁ、ごめん。って、あれ?」 こなたが私の顔を見上げてくる。 うわっ、夢と同じだ。こなたの顔が少しずつ近づいてくる。 「かがみ~、顔赤いよ。熱でもあるんじゃないの?」 こなたが私のおでこに手を当てる。 こなたが私のおでこに手を当てる。 冷たい。こなたの手はひどく冷たかった。 「んぁ~、あったかい。でも、熱は無いみたいだね。」 「こなた、あんた、手、冷たくない?」 「あ、わたし冷え性だからね。ごめん、いやだった?」 こなたは苦笑いをしながら聞く。 「そうじゃなくて、手袋とかは?」 「ん、無いけど・・・」 「じゃあ、私の手袋貸してあげるわよ。」 あんたの手、冷たすぎるのよ。ちょっと、心配しちゃうじゃない。 「え?いいって、かがみの手が冷えちゃうじゃん。」 「平気よ。私冷え性ひどくないし。」 「え~、でも・・・・」 なに遠慮してるのよ。 「なんだ?私のだと嫌なのか?」 「わかったよ。じゃあ、左手のだけ貸して。」 「片方?・・・はい」 私はこなたに手袋を渡す。 「これで、手をつなげば、二人ともあったかくなるでしょ?」 「え?ええ?」 「ん~、やっぱわたしのほうが手が冷たいから嫌か・・・」 「いやっ、そうじゃなくて・・・」 「ん?じゃあなんで?・・・あ、そっか、かがみったら、恋人だと思われるとか心配してるんだ~」 「そ、そんなんじゃないって」 「大丈夫だよ。たまにあの子達百合っぽいとか思うことがあるけど、実際にはほとんどそういうのって無いしね」 それって、どういう・・・ 「だから。」 そう言ってこなたに私の手を握る。 やっぱりこなたの手は冷たかった。でも、なぜか私はぽかぽかと暖かくなってくるような気がした。 「あっ、ところでさ~」 「ん?」 「なんの夢見てたの?」 「えっ?」 「いや、寝言でわたしの名前を呼んでからさ、どんな夢を見てたのかなと思って・・・」 「いやっ、それは・・・」 あんな夢を見てたってばれたら私・・・あぁぁぁぁぁぁぁ 「えと、どこまで聞いてたの?」 「えと、どこまで聞いてたの?」 「名前呼んでたとこしか聞いてないけど・・・」 「そっか・・・」 私はため息を付く。 「なに?その意味深な反応。愛の告白でもしてたのかな~?」 「そんなわけ無いでしょ!」 こなたはなんでこういうことを堂々と聞けるんだろ?やっぱ、脈ないのかな? 「そうだよね~でも、夢の中でも怒ってるだなんて、かがみ凶暴www」 「・・・・。ねぇ、こなた。」 「どしたの?かがみん?」 「もし、本当に愛の告白してたとしたらどう思う?」 夢では私じゃなくてこなたからだったけど・・・ 「かがみん?」 もう時間は少ない。 「私さ、ずっと思ってたんだ。」 でも、もう二年以上一緒にいる。十分以上の時間をかけたハズだ。 「私、こなたが好き。」 これでだめなら、きっとあきらめるしか無い。 「え・・・・?」 空気が一瞬、凍りついた気がした。 こなたは私と繋いでいた手を離し、私へと向きかえる。 こなたの顔にはあきらかな困惑と驚きが広がっていた。 「な、なにいってるの?かがみ?」 「だから、私はこなたのことが本気で好きなのよ。」 こなたの顔がみるみるうちに青ざめていく。 やっぱり、だめだったんだね。 「お、おかしいよ。私たち女同士だよ。あ、ありえないよ・・・」 「だって、漫画とかラノベとかにだって・・・」 「二次と三次は違うよ」 こなたにそう言われるとは思わなかった。 「ごめん。かがみ・・・」 そう言うとこなたは左手にはめられていた手袋を付き返し、走っていってしまった。 私は・・・どうすればいいんだろう? 翌日、私はつかさに風邪だと言って学校を休んだ。 これから、どうやってこなたに接して行けばいいのかわからない。 あの別れ方だから、もう顔を合わせることも無理なのかもしれない。 もしかしたら、これで私たちの友情も終わってしまうかもしれない。 そんなことを一日中考えながら、結局、何もすることが出来ずにその日は終わってしまった。 一日あけた次の日、私はつかさと共に家を出た。 12月の第二週は期末試験だし、受験ももう間近だからこなたのことばかり考えて、うじうじと休んでるわけにも行かない。 私はつかさと一緒にこなたをドキドキしながら待っていた。 こなたがどう接してくれるかとても不安だったからだ。 やっぱりこなたとは友達のままでもいいから一緒にいたい。 「こなちゃん、おはよ~」 つかさがいちはやくこなたの姿を見つけ、あいさつをする。 こなたは眠そうに両手で目をこすっている。こなたはやっぱりかわいいなと思う。 「オッス、こなた。」 私も一歩遅れて、出来る限り前のようにあいさつをする。 すると、こなたは私の姿を気づき、ビクッと肩を震わせる。 「お、おはよう。」 こなたは少しこわばったような笑顔で言う。 その表情を見て、私の胸がズキッと痛む。もう私の前でこなたは以前のように笑ってくれることは無いのだろうか? 「こなちゃん、何が元気ないね。寝不足?」 こうしてこなたの落ち込んだ表情を見ていると、一緒にいるだけで私はこなたを傷つけているように思えてくる。 「え?あ、うん。ちょっとね。」 もしそうなら、私はもう、この場所にいていい人間じゃない。何より私がいたくない。 「今日は4時間ぐらいかな?」 こなたは苦笑しながらつかさと話している。どちらにしろしばらくはこなたに会うの控えよう。 「すごいね。こなちゃん。私には・・・・」 私はこれ以上こなたに嫌われたくない。 その日から私はこなたの教室に行くのを止めた。 こなたたちといると話ばかりして勉強が出来ないから、そう言って私はこなたから逃げた。 自分のクラスには峰岸やみさおがいるし、勉強にかまけていれば一時的にでもこなたのことを忘れることができた。 卒業まであまり無い中、二人と一緒にすごすのも悪くない。 テスト期間に入る頃になるとこなたは私と一人ですれ違うたびにビクッと反応するようになっていた。そのとき、私は本当に嫌われてしまったんだなと確信した。 そうして、時は過ぎて行き、テスト週間も終わった。 そして、その間、こなたがわざわざ私に会い来る事は無かった。 「おねぇちゃん。なんで今日先に帰っちゃったの?」 つかさが怒った顔で私に問い詰めてくる。めったに怒らないつかさが怒っていた。 今日、テストが終わった日。私達は四人で大宮にでかける約束をしていた。 テストが始まる前、つかさに半ば無理やりに約束させられた。それを私はドタキャンして先に家に帰ってしまったのだ。 「最近こっちに来ないんだから今日ぐらい約束守ってよ。こなちゃんだってすごく楽しみしてたのに」 私はいらいらした。私は堂々とこなたに会いに行けるつかさとは違うのよ。 「うるさいわねぇ、そんな暇は無いのよ。あんたもそんなことしてないで勉強しなさいよ。」 私より成績よく無いくせに・・・ 「おねぇちゃん、どうしたの?最近変だよ。ずっと、いらいらしてる。」 「それは受験が近いから、もう邪魔しないでつかさ。」 もうほっといてくればいいのに 「おねぇちゃん、たまには休まないと・・・」 「うるさいなぁ、なんなの一体?」 「なんなのって、みんな心配してるんだよ。」 嘘ばっか・・・そしたら、こなたが何も話しかけてこないわけ無い! 「う・ば・・か」 「え?なんて言ったの?」 「嘘ばっかって言ったの!」 「嘘じゃないよ。おねぇちゃんは知らないかもしれないけど、こなちゃんなんておねぇちゃんを心配してずっと落ち込んでるんだよ。」 つかさは何もわかってない。それは心配してるんじゃない。私がこなたを裏切ったからだ。 「だからさ、今度みんなと一緒に遊びに行こうよ。」 「いいわよ。そんなの」 だから、もうその話は止めにして。しつこい。 「なんで?じゃあ、こなちゃんのためだと思って、こなちゃんずっと楽しみにしてんだよ。」 バシッ 気づくと私はつかさを張り倒していた。左手が痛い。 「お、おねぇちゃん・・・?」つかさは尻餅をつき、頬押さえて、うめくように私を呼ぶ。 事態の大きさに気づき私はあわててつかさに駆け寄る。 「ご、ごめん。つかさ、大丈夫?」 「大丈夫だよ。」つかさはにっこりと笑いかけてくれる。 ホント、私は何してるんだろう? 「って、あれ?おねえちゃん、泣いてる。」 「え?」 私は自分の頬に触ってみる。何かが指に触れる。 その瞬間、私の目から涙がとめどなく溢れ出してきた。 「な、なんで?私泣いてるの?」 涙はいくら止めようとしても止まってはくれない。私の目からぼろぼろと涙が流れ出てくる。 私はつかさに抱きしめられる。 「おねぇちゃんもう大丈夫だから。だから、ね。」 「ぁ・・うぅ・・・ゎぁぁぁぁ」 「こなちゃんと何があったの?」 「も、もう私どうしていいかわから無くて・・・」 テスト返却もおわり、三年の私たちは今日を境に一足先に冬休みに入る。 あのあとつかさから聞いた話ではこなたが一緒に出かけるのを楽しみしてたのはやっぱり本当で、でもその反面、そのことを不安がってたりもしてたらしい。 そしてつかさはギクシャクしたまま四人で遊んで友達関係に戻る前に、やっぱり一度ちゃんとよく話したほうがいいと言ってきた。 なんならつかさはこなたと話し合う機会を自分がつくってもいいとも言っていたけれど私は断った。やはり、こういうのは自分でやらなきゃいけないと思う。 でも結局、私は今日までこなたに話しかけることが出来なかった。 今にも、雪が降ってきそうな曇り空を誰も居なくなった教室で私は眺める。もうあれから約一ヶ月。ずいぶんと遠いところにきてしまったような気がする。 私はそっと携帯電話を開け、こなたのアドレス張へたどり着く。 過去に何回もやった操作。つかさに言われた日から何度もたどり着いたその画面。それなのにずっと最後のたった一つのボタンが押せなかった。 こなたを裏切って友達という関係を壊した私が友達に戻ってなんて言うのはただのわがままなのかもしれない。 でも、どんな形でも、どんななにわがままでも、やっぱり私はこなた一緒にいたかった。 こなたに付き返されたあの手袋。今度は付き返されないように、そう願い、その手袋で最後のボタンを私は押す。 「みん♪みん♪みらくる♪みくるんるん♪みん♪みん♪みら・・・」 こなたの着信音が静かだったはずの教室にこだました。 「みん♪みん♪みらくる♪みくるんるん♪みん♪みん♪みら・・・」 こなたの着信音が静かだったはずの教室にこだました。 振り向くとそこにはこなたがいた。 「もしもし、かがみ?」 耳に当てた携帯から、直接こなたから、こなたの声を聞いた。 「もしもし、こなた?」 「うん。そうだよ。」 「なんか、ひさしぶりにこなたの声を聞いたような気がする。」 「うん。私もひさしぶりにかがみの声を聞いた。」 こなたはゆっくりと近づいてくる。 「私さ、やっぱ冬休みに入る前にこなたと話しておきたくて。」 「うん。私もかがみと直接話がしたかった。」 「そう。。。」 パタン こなたが携帯の画面を閉める。 「先にさ、謝っていいかな?」 「な、なんで?」 「だって、やっぱ、ひどいこと言っちゃったじゃん。」 「そんな謝る必要ないって!一般的に見れば普通の反応だしさ!急に言ってびっくりさせちゃったのは私だし。」 「でも、かがみずっと怒ってた。」 「ちがっ、怒ってなんか(無い。ただちょっと悲しかっただけ。)」 「・・・・かがみん。私、かがみがいなくなって気づいたんだ。やっぱ、私はかがみがいないとだめだよ。」 こなたは私の手が届くぐらい近くいた。 「だからさ、すこしぐらいなら私をかがみんが好きにしてもいいから、もう無視しないでよ。」 急にこなたが私にガシッとしがみついてきた。 「む、無視なんかしてないわよ。って、いう・・・」 「無視してたんじゃないの?」 こなたは少し目を見開いて驚いた表情で聞いてくる。 「なんで、そうなるの?」どこをどう見たらそうなるんだ? 「だって、いくら話しかけようとしても目をそむけるし。」 「あれは私がこなたに嫌われてると思って・・・」 「あの時は驚いたけど、嫌いになるわけ無いって!」 「そっか、ありがと。」 私と一緒でこの一ヶ月、こなたも悩んでた。私とどうすれば一緒にいられるか悩んでくれていた。それだけで私はとてもうれしかった。私はこなたを包み込むように抱きしめる。この一ヶ月がただのたちの悪い悪夢だったように思える。 この一ヶ月がただのたちの悪い悪夢だったように思える。 「それにしても好きにしてもいいって・・・」 「かがみんが私のこと嫌ってないなら取り消すヨ。もしかしていろいろ期待したりしちゃった?」 「なっ!」いろんろって・・・ 「かがみん、真っ赤。でも、ほんとかがみはいじりがいがあるよね。」 「なにぃ!?」 「わぁ、かがみん、こわ~い。」 「コイツ、ムカツク!」こういう時までこいつは・・・ 「・・・でもさ、前みたいに戻れたね。」 「え?」 「かがみんにそっち気があるなら私、これからギャルゲーで一生懸命勉強するよ。かがみんのこと好きだし。」 「なっ?そ、そんなことしてる時間あるなら受験勉強しなさいよね!私がいない間さぼってたなんてことないわよね?」 まったく、そういうはずかしいことをあんまストレートに言うな。 「あははははh・・・」 こなたは急に走り出す。ちょっ、マジっすか? 「こらぁ~にげるなぁ~!」 追いかける私から自然と笑みがこぼれる。これからこなたにいろんなことをみっちり教えてあげなきゃね♪ コメントフォーム 名前 コメント GJ! -- 名無しさん (2022-12-23 23 50 43)
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『梅雨の夜』 暦の上で梅雨に入り、土砂降りの雨が私たちに降り注ぐ。 しかも突風のせいで傘が壊れ、ずぶ濡れで帰る羽目になった。 「何なんだよもう…降水確率30パーセントって言うから安心してたのに」 天気予報に不満を言う私。 「いや、0パーセントじゃないってことは、降るかも知れないってことだよ」 冷静に突っ込むこなた。 「…それはそうだけど、ここまで酷い天気になるなら、先に言って欲しいわ」 最終バスを逃してしまい、駅まで歩くことになった私たち。 教室でテスト勉強していたら、いつの間にか下校時間をとっくに過ぎてしまい、外は真っ暗になっていた。 見回りの先生には怒られるし、本当に最悪の一日だ。 「あーあ、テスト勉強、真面目に頑張ってるのになぁ…ちょっとくらい、いい事あってもいいんじゃないかしら」 「かがみん、世の中そんなに甘くないんだよ」 「…あんたに言われると無性に腹が立つ」 そうは言っても、この暗い夜道を一緒に歩いてくれる友達がいるのは心強い。 この辺にはコンビニもないので、一人っきりだったら、どれほど怖い思いをしていただろう。 「それにしても、駅までこんなに遠かったかしら?バスだと結構早いのに…」 「いつも中でしゃべってるから、早く感じるんじゃないの?」 「あぁ…そうかもね…」 しばらく歩くと、物置のような建物が見えてきた。農機具か何かを保管しているのだろう。 「ちょっと、あそこで雨宿りしない?」 「そだねー」 私たちは駆け足で軒下までたどり着いた。 「ここなら、しばらくはしのげそうね…」 「でも、いつまでもこうしちゃいられないね…」 こなたがポケットから携帯を取り出した。 「ちょっとうちに電話してみる」 「え、迎えに来てもらうの?」 「今日、ゆい姉さんが来てるかも知れない」 しばらく呼び出し音が聞こえた後、おじさんの声が聞こえてきた。 「あ、お父さん?私だけど…うん、今帰る途中でさ……うん、最終バス逃しちゃってさ……姉さん来てるの? ……あ、そうなんだ。じゃあ、お願いしてもいいかな?場所はね…」 パタン、と携帯を閉じた。 「大丈夫だよ。迎えに来てくれるってさ」 「なんか、悪いわね…気を遣わせちゃって」 「いいのいいの、今日はいっぱい勉強教えてもらったし」 こなたが笑う。 「今度の試験で赤点取ったら、追試だって言われてるし…」 「確かにそれは嫌ね…」 こなたは暗記が得意なのか、世界史の成績はいつも上位だが、他の科目はパッとしないのだ。 特に英語や理系の科目は、一夜漬けでどうにかなるものじゃない。 「あぁ…こんな事なら、一年のときからもうちょっと真面目にやっとけばよかったなぁ…」 「お、珍しく弱気じゃない」 「だってさ、追試でアニメやゲームの時間がさらに削られたら…私は禁断症状で苦しみぬくんだよ…」 「大げさなんだから…別に死ぬわけじゃないのに」 「いや、私にとっては栄養と一緒なんだよ。アニメやゲームのない暗黒世界に生きられるわけないんだよ」 「はいはい、じゃあ明日も頑張ろう。それから好きなだけ楽しめばいいわ」 「うぅ…ありがと。かがみん」 こなたが私に抱きついてきた。 「むにゃー…やわらかい…」 「こ、こら…変な事言うんじゃない」 「かがみぃ、寒いよー、しばらくこのままでいたーい」 「ちょ…誰かに見られたらどうするの?」 「風邪引いちゃうよ~~…」 「わ…わかったわよ」 「ねぇ…かがみ」 「ん?」 「ホント…いつもありがとう…感謝してる」 「どうしたのよ、いきなり…」 「私さ…かがみがいなかったら、途中で投げ出してたと思う…」 「え?」 「自分の勉強もやってるのに、私のために昔の教科書一つ一つチェックしてくれてさ、 わかりやすく教えてくれるのって、かがみだけだよ」 「でも、みゆきだって聞けば教えてくれるでしょ?」 「…そうだけどね…なんか、かがみのほうが気軽に聞けるって言うか…」 「それって、私はみゆきより下に見られてるってこと?」 ちょっと意地悪な質問をしてみた。 「違う…そうじゃない」 こなたが急に真顔になった。 「……かがみと一緒にいると、なんか気持ちが落ち着くって言うか… うまく言えないんだけど、他の友達には無いものがあるんだよ」 「え…?」 「かがみと一緒にいたいんだ…」 まっすぐに私を見つめて、こなたが言った。 「そ…そっか、頼りにされるのも悪くないわね…」 なぜだろう…心臓の動きが早くなっている。 (何なんだ一体…こなたってこんなこと言う奴だったか?) 「かがみん…」 「な…何?」 「今日は水色ですか…ふむ…」 「ば…ばかっ!恥ずかしいから見るな!!!」 下着が透けて見えていることに今更気づいた。 「いやぁ、かがみんって細いのに出てるところはしっかり出てるよね」 「品の無い事言うな!お前はスケベオヤジか!」 「女に生まれてよかったなぁ、こうしてかがみとイチャイチャ出来るし」 「う…うるさいっ、…こら、そんなとこ触るな!」 「あー…赤くなってるかがみんもかわいい~~」 こなたはやっぱりこなただ。 いつも明るい雰囲気を作ってくれるから、大変な勉強も乗り越えられそうだ。 「あぁ~、二の腕の感触…たまりませんなぁ…」 「だからやめろって言ってるだろ!」 「嫌がる顔もかわいいのぉ…むふふふふふ…」 「何なんだよもぉーーー!!!」 ただ、今は早く迎えが来てほしい。 こなた責めはそろそろ勘弁してほしいのだが。 (終) コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-02-18 07 43 12) 最後のツンデレ最高ッス!ニヤニヤが止まらないッス!! -- 名無しさん (2011-05-15 02 58 17)
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『二人の時間』 電車を降りた私は、まっすぐ自宅へ向かっていた。 今日は週末だからと、上司に飲みに誘われた。結構気を遣って疲れた。 帰ったらすぐに寝よう。 春から社会の一員になった。 本当は実家に帰りたかったが、会社から遠いので、都心のアパートで一人暮らしをしている。 今住んでいる街は、都内の人気エリアだ。お父さんが、危ない街には住ませられないと言うので、このアパートを見つけてくれた。 実際、街の治安は良く、駅から近いので、結構気に入っている。 自宅の前に来たので、鍵を開けようと、ポケットに手を入れた。 (ん…?) 鍵がない。反対のポケットにも、上着の中にもない。バッグの中身を全部出して中を確認したが、やはりない。 「あああああああ」 思わず声を出してしまった。どうしよう。ネットカフェにでも泊まるか。それともコンビニで時間を潰そうか。 どっちにしても鍵がないなんて最悪だ。家に入れない。 「どうしよう…」 「どしたの」 ふと、背後から声をかけられた。はて、どこかで聞いたことが…。 「あ、やっぱりかがみんだ」 そこにいたのは、コンビニの袋を提げた、長髪の小柄な女性。 「こ…な…た…」 「おいおい、私はお化けじゃないんだよ。足もちゃんとあるぞー」 「そ…そうじゃなくて!なんでここにいるの」 「…だって私、ここに住んでるし」 どうやら、ちょうど私の部屋の上に住んでいるらしい。 ただの偶然なのか…それとも、どこかの団長が望んだのか。 何を考えているんだ私は。 「いやー、助かったわ」 こなたの家で私はくつろいでいた。ビールまで飲ませてもらっている。 「むふふ、鍵をなくすドジっ子かがみん萌え~」 「ふふっ、あんた、変わんないわねー」 「萌え探しは私の一生の課題なのだよ」 「アッハッハッハ!!!面白いそれー」 「かがみーん…もしかして、酔ってる」 「ぜーーーーーんぜん」 饒舌になっているのはわかるが、ビールのせいなのか。別にいいか。 「そういえばさ、仕事のほうはどうなのよ」 「んー、やっぱきついね。周りが優秀な人ばっかりでさ。ついていくだけでいっぱいいっぱいだよ」 「そっかー、私もそんな感じよ。社会人ってそんなものかしら」 会話が弾む。こなたと二人っきりの時間。楽しくてたまらない。 この時間がもっと続けばいいのに。いつかは終わってしまう…。 「んでさ、セバスチャンが声優デビューしたらしくてさ」 「あぁ、白石君でしょ?なつかしー」 あの日、夜空の下でこなたに抱いた感情。 胸の辺りが熱くて、締め付けられるような感情。 一体、何なんだろう。 「あ、そうだ、峰岸が結婚するらしいわよ」 「え、えーと…誰だったかなぁ…」 「おいおい、学祭で一緒に踊っただろ」 離れたくない。もっと一緒にいたい。 でも、そんな事言ったら、嫌われる…。 嫌だ、でも…。 「どうしたの、かがみん。ボーっとしちゃって」 「え、あ、あぁ…少し飲みすぎたかな。ちょっと水飲ませて」 そう言って立ち上がり、流しのところへ向かおうとした。 「ねぇかがみん」 「何?」 「卒業前にさ、二人で遊びに行った日のこと、覚えてる」 「えぇ、覚えてるけど」 「本当に…あの日は楽し……」 急にこなたが黙り込んで俯いた。 「どうしたの」 「かがみ…」 少し潤んだ目で私を見つめる。 「…今日さ、かがみに会えて、本当に嬉しかったんだ。 大学卒業したらもう二度と会えないんじゃないかって思ってたんだ。でも今日、会えた」 「こなた…」 「変だと思うだろうけど、私さ、ずっとかがみの事気になってた。高校で会って、一緒に遊んだり、一緒に笑ったり、 たまに怒られたりしたけど、毎日楽しかった」 「…」 「でも、正直なこと言ったら、嫌われるんじゃないかって思って… もうかがみと一緒にいられなくなると思って、ずっと、自分を誤魔化してきたんだ」 「…」 「でも、もうこんなもやもやした気分のまま、生きていくのは嫌なんだ。だから、言っちゃう…」 「…かがみのこと……好き」 こなたは涙を流している。そしてすすり泣き始め、机に突っ伏した。 「こなたっ」 私はこなたを背後から思いきり抱きしめた。 「私もずっと、こなたのこと好きだった」 なぜだろう。急に心が軽くなった。私のバカ。こなたを泣かせてしまうなんて。 「うえ…え…かがみ…」 こなたは顔を上げると、私の方を振り向いた。 私はそのままこなたを正面から抱きしめ、唇を重ね合わせた。 「ん…」 二人の舌が生き物のように絡み合い、口の中の唾液が全てこなたに吸い取られていく。 「んぅっ…ハァ…」 「ハァ…こなた…んっ…」 長い口付けがしばらく続くと、こなたの体が私から離れた。 互いの唇を離しても、まだ唾液の糸でつながっている。 気が抜けたように虚ろな目をしているこなたが、私を見つめている。 「かがみ…」 「こなた…」 互いの名前を呼び合うと、今度はこなたが唇を重ねてきた。 「んっ…かがみ、大好きっ」 「…ハァッ…こなたぁ!」 人を好きになるって、こういうことなのだろうか。私にはわからない。 でも今はただ、こなたの傍にいたい。 先のことは、後々ゆっくり考えたらいい。 今はただ、この夢のような時が止まらずに続いて欲しい…。 翌朝…。 「…んあ、こなた」 「おはようございますお嬢様」 どうやら、あの後寝てしまったらしい。 テーブルの上には、二人分の朝食が用意されている。トーストやコーヒーのいい匂いが混じっている。 「あ…ごめん。悪いわね。気を遣わせちゃって」 「気にしない気にしない。かがみは私の嫁なんだから」 「さらりと大胆なことを言うなぁ」 「だって、夕べは激しかったじゃん。かがみんったらあんなに大胆に…」 「ちょ、ちょっと待って!わ、私あれ以上のことは…」 「いやぁ、ウサギがオオカミに変身する貴重な瞬間を見られたよ」 「え…」 絶句する私。一体、何が起きたというんだ。 「いや、冗談だから。そんな真面目に固まられても困る…」 「こ…こーなーたーー」 「怒ったかがみんもかわいい~」 恥ずかしすぎる。こいつはひょっとすると、人間の皮をかぶった狐なのか。 「あ、そう言えばさ。鍵あったよ」 「え、ど…どこに」 「財布の間に挟まってた」 「ちょっと、人の財布勝手に見たのか」 「いや、床に落ちててさ。拾い上げたら落ちてきたんだよ」 「あ、そうだったの。…ありがと」 「むふふ、かがみんはつかさ以上の天然だったりして」 「うっ…うるさいっ」 素直になれない性格は、なんとかならないのだろうか。 本当は、すごく嬉しい。 こなた…ありがとう…。 大好き。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-01-07 02 49 49) 頑張れ〜! -- かがみんラブ (2012-09-17 23 33 05) 色んな経験を積んだ後に「やっぱり貴女が好き」と言える二人が好きです。 作者様GJ!! -- 名無しさん (2011-01-09 11 25 42) このあと同棲ですかね? -- 名無しさん (2010-05-12 16 17 14) コメントありがとうございます。 悩んだ末に告白するというシーンが書きたかったのです。 普段能天気に見えても、実は繊細な面がある、というのが個人的に好きでして…。 やっぱりこの二人には幸せになって欲しいです。 -- 13-351 (2008-04-16 00 22 18) こなたが告白するシーンがちょっと切なくていいです。幸せになれてよかった… -- 名無しさん (2008-04-14 14 11 51)
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空はもう完全に暗くなっていた。 街灯が街を薄暗く照らす中を、私は走り続ける。 早いペースで吐かれる白い息が、夜の寒さを証明する。 はぁ、はぁ……げほっ……はぁ、はぁ………。 ずっと走り続けていたせいか、両脚に激痛が襲う。 体力も、とっくに限界を超えている。 「ぁっ………」 ふわりと私の身体が宙に浮き、そのまま地面に倒れる。 「いたた………」 こんな、なんにもないところで転んじゃうなんて……。 もしこなたに見られたら、またからかわれちゃうな……。 『かがみぃ~、こんなところで転んじゃうなんて、もしかして、ドジッ娘属性もあったのかな~? ツンデレにドジッ娘……。よくゲームにでてくるパターンだねぇ~?? また1つかがみんの魅力に気づいちゃったよ~♪ でも、俺の嫁なんだから、ちゃんと身体を大事にしてよね~?』 こなたのニヤニヤ顔と独特間の延びした声が浮かぶ。 ―――こなただけじゃない。 『信じてます、かがみさん』 うん―――。そうだよね―――。 『お姉ちゃんが、できないことなんてないよ!』 みんな、私を信じてくれてる――。みんな、私を支えてくれてる――。 『こなたを……頼んだよ』 近くからも―――。 『……あの子を……お願いします』 彼方からも―――。 みんなの気持ちを、無駄にできない。 私の覚悟を、曲げられない!! 「しっかり……しなさい……!今だけでいいから……!!」 振り疲れた腕を叱咤し、疲労困憊の脚に力を込め、なんとか立ち上がる。 痛っ……。 今までとは違う痛みを感じ、見ると、右脚から赤い鮮血が流れていた。 転んだ時に怪我しちゃったみたいね……。 でもこれくらい、どうってことない。 こなたへの気持ちを我慢していた頃に比べたら、ちっとも辛くない。 『わあぁ!お姉ちゃん、その脚どうしたの!?』 『かがみさん、すぐ消毒しましょう!菌が入ってしまうと大変です!』 『かがみん何してたの?もしかして獣人と戦闘してその程度の傷っていうわけじゃ……』 頭だけは、ちゃんと働くみたいね………。 『誰が戦闘するか!』 私も、『いつものみんな』の中に入る。 こなた、聞こえてる? 私はね、そんないつもの風景を取り戻しに来たの。 あなたを取り戻しに来たの。 わたしを―――――取り戻しに来たの。 それだけを、その場所だけを目指して、走り出した。 さっきまでの疲れが嘘のように消え、脚の傷の痛みなんて少しも感じなかった。 まるで、昼に屋上の空を祝福していた神様が、今度は私を祝福してくれてるみたいだった。 ―――ありがとうございます、神様―――。 心の中でお礼を言った。 見慣れた建物が、見えてきた。 そう、そこは―――学校。 やっと着いた……!! こんなにも望んで、強い思いを抱いて校門をくぐるのは、初めてだった。 「こなた……!!」 早く探さないと……!! 校舎の中は昼とは違い、多分つかさなら怖がってその場から動けなくなるくらい、真っ暗。 ………………私も正直、怖い。 けれど今はそんなこと言ってられない。 感覚を頼りに教室を目指し、月明かりに照らされた廊下を駆け抜け、扉を開ける。 そこには暗闇に覆われた光景が広がっていた。 「こなた……?」 呼び掛けた相手の有無を確認するように、名前を呼ぶ。 存在が認知出来るのは、机と椅子と窓と黒板。 ………こなたの姿はなかった。 まだ――。 まだ1つしか見てないじゃない。 まだこなたがいないって決ったらワケじゃないわ。 ――窓には、少し陰った月がうつっていた。 私はやみくもに探し回る。 けれどその姿はない。 こなた、何処にいるの……!? こなた、こなた、こなた……!! ねぇ、隠れてないで、出てきてよ!! こなた、お願いっ!!私の願いに応えて……!! 私はその名前を呼び続けた。 けれど声は闇に吸い込まれていくだけだった。 最後の教室――――。 私はすがるような思いで扉を開ける。 熱いものが込み上げてきて、視界が歪む。 そこにも、私の求めてる姿はなかった――――――。 まだ……まだ……。 そう思いたい。だけど、もう探す場所がない。 もう一度探してみよう……。 ほんの数十分前まで気にならなかった疲れと痛みが、徐々に襲ってくる。 それでも私は来た道を戻りながら、一つひとつ見て回る。 けれど、どこの教室もあるのは暗闇だけ。 漆黒の空にたった一つ浮かぶ光。 空の教室を見る度に、その光も暗雲に覆われていく。 さっきまで私の中であんなに強い意志という名の光を放っていた心は、 今ではとても弱々しい、今にも消えてしまいそうなほど儚いものになっていた。 スタートラインだった教室。 今、そこに私は戻ってきた。 これが最後。 ………怖い。 もしこなたがいなかったら………。 ううん、いない確率のほうが高い……。 『扉をあける』という、誰でも日常的にやっていること。 今の私にはそれが計り知れないほどの恐怖の対象だった。 ―――こなた―――。 震える手で、扉を開けた。 ――――あったのは、どこまでもつづく暗闇。 ………こなたぁ……。 ねぇ……どこなの……? ……もしかして……違ったの……? こなたの望んでいたことは、私の望んでいたことと違ったの……? 私の中の僅かな光さえも、闇に――――。 月明かりが照らす僅かな光の中。 そこにうつるもの――――。 私の心の闇の中を、一筋の光が差し込み始めた。 小さな身体。 蒼の長い綺麗な髪。 頭に象徴を主張するようにあるアホ毛。 右目の下の泣き黒子。 エメラルドグリーンの瞳。 私の目にうつるもの―――。 一筋の光が、一瞬で大きくなった。 「こなたぁっ!!!」 私はその名前を呼んでいた。 また走り出していた。 さっきまでの辛さを少しも感じなかった。 私の心は、完全に光を取り戻していた。 そこは―――― ―――3年C組。私のクラス。 こなたはいてくれた。 私が思ったところに。 その小さな身体をさらに小さくして、膝を抱えて座る姿がそこにあった。 「こなた……!」 私はただただ嬉しくて、その名前を呼ぶ。 「か、かがみ……?」 こなたは対照的に、暗く小さな声で私の名前を呼んだ。 「本当にかがみなの………?夢とかお化けじゃない……?」 「そうよ……」 「さっきのも、夢じゃなかったんだ……」 こなたはびっくりしたような顔になった。 「こなた……な、なにやってたのよ……?」 息があがってしまい、単純な言葉しか話せないのが、もどかしい。 「今日休んだ分のノート写させてもらいたいから、かがみが来るのを待ってようかなって……」 「何時間……待つつもりなのよ……!」 「6時間でも12時間でも24時間でも……。かがみが朝に登校するのを待ってるつもりだったよ。 ほら私、ネトゲのモンスターの出現待ちとかで、待つのには慣れてるしね」 放課後から朝まで。 半日を越える時間。 わざわざ制服をきているし、本気で待つつもりだったんだろう。 「もう……!何言ってんのよ……!」 こなたが言っていることが建前だっていうのは分かる。 ……何で……。何でそこまでするのよ……。 私のためにそこまでしてくれたのはすごく嬉しい。 だけど、こなたがそんな辛い思いするようなことしなくていいのに……。 悪いのは私なんだから、辛いのは私だけで良いのに……。 「……かがみはどうしてこんなところに……?もしかして、忘れ物? 人に見られちゃマズイ物だから、夜に取りに来たのかな~?」 「バカ……。アンタを探してたのよ……!」 「えっ………?」 こなたは驚いたような顔になる。 「かがみが、私を……?」 「そうよ!な、なんかおかしいの!?」 もう息は整っていた。 「かがみはやっぱり優しいね……。私なんかのこと、探してくれてたんだ……」 「当たり前じゃない……!」 だって、こなたに会いたかったから……! 「…………ありがとう」 「私がそうしたかったからやったのよ。だから、お礼を言われる資格はないわ」 そう、これは私の意志――――。 だから私は今、こうしてこなたの前にいれる。 「私もかがみに会いたかった……。だから、学校に来たんだけど、もう放課後で……。 かがみがいるわけなかったんだよね……」 「こなた………」 待たせてごめんね……。 もっと早く気づいてあげればよかったのに……。 「かがみ、ごめん」 「こなたは謝らなくていいの。だって―――」 「何も言わないで良いよ。私、分かってるから……」 「違うの!」 「私、何か怒らせることしちゃったんだよね。だから、私のこと、最近避けてるんだよね……」 「こなたのせいじゃ―――」 言い終わる前に、言葉が止まった。 小さな身体が、小さな声が、小さく震えていた。 「ごめん……ごめん……なさい……。私……何でも……するから……かがみが…… して……欲しいこと……絶対……するから……許して……かがみ……お願い……」 こなたが……あのこなたが、泣いてる……。 いつもふざけたことばっかり言ってるこなたが……。 いつも私の宿題を写してばっかりのこなたが……。 いつも猫口で私の名前を呼んでくれるこなたが……。 いつも私の隣にいてくれたこなたが……。 私の好きな――ううん、愛してるこなたが……。 そのこなたが、泣いている。 こなたに悲しい涙を流させてるのは誰――? ――私だ。 なら、私のすべきことは何―――? ――それは、私が一番よく知ってる。 「こなた、ごめんね………」 「えっ……?」 私は、こなたをぎゅっと抱き締めた。 「謝らなくちゃいけないのは、私……。ごめんね……。 私にもっと勇気があれば、こなたにこんな悲しい思いをさせずにすんだのに……」 「かがみ……どうゆう……こと……?」 私は、こなたを抱き締めていた手を離し、こなたと向き合う。 「私、こなたのことが好き。世界中で一番好き。誰よりもこなたを愛してる」 「えっぇっ……?」 こなたの顔が、見たことがないくらい真っ赤になっている。 「ずっと、自分の気持ちを抑えてた……。こなたに迷惑かかるって思って。 それにもし伝えて、それで断られたら、こなたと、それからつかさやみゆきとも一緒にいられなくなるって……」 辛かった。でも、それが最善の策だと思ってた。 「だから、こなたと少し離れて気持ちを消そうって思ったの。 でも逆に、気持ちはどんどん大きくなっていちゃって……」 そう、自分の気持ちにウソはつけない。 「こなたが今日休んで……つかさとみゆきに呼び出されたわ。 そこで二人に言われて、やっとこなたと向き合う勇気が持てたの」 こなたは呆然としていたけど、すぐハッとなったように慌て始める。 「でも私、背も小さいし、胸もないし、オタクだし、アニメとゲームとマンガの 話ばっかりだし、勉強出来ないし、宿題も写してもらってばっかりだよ……?」 「バカ……。そんなところも全部好きなのよ」 こなたの全部。良いところも悪いところも。 その全てを、私は好きになったんだ。 「かがみ……」 こなたが、顔を伏せる。 「でも、女………だよ………?」 こなたもやっぱりそう思ってたんだ……。 でも、私の答えはもう出てる。 「私もずっと悩んでた……。でもわかったの。 私は一人の人間として、こなたを好きになったんだから、性別なんて関係ないって」 「ぁっ……」 「だから、こな――」 「かがみッ!!」 こなたが抱きついてきた。 「私もかがみのことが好き!」 「こなた……!」 私もこなたを抱きしめ返した。 「私も怖かったんだ……!かがみ、普通に彼氏とか作りたいみたいだったから……。 だから、身近に自分のことを好きだと思ってる『女』がいたら、距離を置かれると思った。 そしたら、今までみたいに、かがみと一緒にいることも出来なくなる……。 それだけは、絶対嫌だったんだ……。だから、隠そうと思った。 少しかがみに触れたり、私の嫁だって言うくらいなら良いよね、って自分に言い聞かせて、 それで我慢しようとしてたんだ。でもかがみはそれも嫌がってるみたいだった――。 だから、もう私はかがみの近くにいることを諦めたんだ……。 もう、私にはかがみの近くにいる資格をなくしちゃったから……」 それって――――私と同じ―――。 「でも、私は耐えられなくなっちゃったんだ……かがみが近くにいてくれないことに。 資格がないのに会おうとするのは、違反だってわかってたよ。 でも、自分の心にウソをつけなかった。 だから、無理やりにでも明日学校にくるまで、かがみを待ってることにしたんだ」 すごい……。こなたは私と違って、強いのね……。 「こなたは、自分でちゃんと正しい答えをだせたんだ……」 「実は……そうでもないんだよね……」 こなたはあはは、と笑いながら言いにくそうに言った。 「えっ?」 「実は私も、つかさやみゆきさんに色々言われてね……。 でも私、悪い想像ばっかりしちゃっててさ。それじゃダメだ!って思って、 今日休んでずっと考えた。それで、行動に移そうって決めたんだ」 「そうだったんだ」 つかさ、みゆき……本当にありがとう。 もし二人がいなかったら、私たちはきっと今ここにいなかった。 二人には、感謝してもしたりないわ……。 「ね、かがみ。私からも言わせて」 その時のこなたの顔は、力強かった。 「う、うん……」 「私もかがみのこと、1億年と2千年前から愛してる!!」 こなたの言葉が、私の心に何度も木霊する。 ――嬉しい。 私とこなた、ちゃんと繋がってる。そんな気がする。 でも、不思議……。照れくさくなると、つい憎まれ口を叩いちゃう。 「もう、こんなときにもアニメネタか」 「いいじゃん。そうゆうところも好きでいてくれてるん……でしょ?」 「ば、バカ……。恥ずかしいこと言わせるな……」 「自分で言ったことなのに照れてるかがみ萌え♪」 こなたは、もういつものこなたに戻っていた。 「う、うるさいわね……!もう、せっかくのムードが台無しよ」 「むふふ、かがみ、かっこよかったよ~?あんなこと言われたら、誰でもイチコロだよ♪」 「そ、そうゆうこなたも、さっき私のお願い、なんでも聞いてくれるって言ったわよね」 「い、言ったけど、それが?」 泣いたことが恥ずかしかったのか、こなたは少し顔を赤くして言った。 「それじゃ、一つ聞いてもらおうかしら」 「でも良いの?一回限定だよ?」 「そんなこといつ言ったのよ?」 「七つの玉で召喚される大きな龍だって、一回でしょ?」 また適当な言い訳を……。 ま、でも良いわ。 何回でもだったら、何か弱味を握ってるみたいだし、それに―――。 「それじゃ、こなた……」 「かがみ、ここは全年齢対象の板だからね?それを踏まえた発言をしてよね?」 「そんな変なことなんて言わないわよ!」 もう……!まぁ、でも今の方がこなたらしいんだけどね……。 「で、なに?」 不思議そうに眺めてくるこなた。 私は、いつもと変わらない口調で言った。 「もう『俺の嫁』って言うの、やめてくれる?」 「えっ、なんで……?」 さっきまでの顔から一変、こなたの顔は不安の色に染まる。 色んな表情を見せるこなた。 もう少しこの顔をみていたい気もするけれど、憂慮したままじゃ可哀想だしね……。 「それはね――――こなたが『俺の嫁』だからよ」 ふふ、こなたがまた顔を真っ赤にしてる。 「か、かがみ……それって……」 私はそれ以上何も言わなかった。 お互いの考えは同じだから、言葉にする必要ないから。 「ねぇ、こなた」 「なに?」 「あれ、見てよ」 私がこなたを抱き締めていた片手で、ある物を指差した。 こなたが、うわぁっ、と驚いたような表情をする。 「満月だ……」 黒い夜空に浮かぶ、真ん丸な月。 さっきまであんなに翳っていたはずの光……。 それがいつしか、神々しく輝いていた。 吉田兼好は陰りがあるほうが良いって言ってたけど、私はそんなことないと思う。 だって――――。 「私たちの未来は、きっと円満よ」 「それは、鏡じゃ……?」 「月は私なの」 「え?それってどう言うこと?」 「……ヒミツ」 「むむ、隠し事なんて、酷いなぁ」 「仕方ないわね。こなたがウサギだからよ」 「えぇっ!何で私がウサギなのさ!」 「私に会えなくて、寂しくなって目を赤くしちゃったじゃない」 「むむぅっ……かがみのイジワル……」 「良いじゃない、好きな子にはイジワルしたくなるものよ?」 「それって、小学生の男の子と同じLvだよ……」 「な、何とでも言いなさい」 「むむむ~~」 私はこなたの耳元でこっそりと囁く。 「そうすれば、私たち、毎日一緒にいられるでしょ………?」 「うわ……か、かがみ、大胆……だね」 「ふふ、こんなときくらい、素直になってもいいじゃない?」 「やっぱり普段は素直じゃなかったんだね」 「ば、バカ………そうゆうのは言わないものよ……」 『色々』の一言ですませられないくらいたくさんのことがあった……。 そして私は今――――こなたとここにいる。 お父さん、お母さん。 『かがみ』って名前をつけてくれて、ありがとう―――。 私、神様の恩恵をうけれたよ―――。 私とこなたの回りにいてくれている、みんな――― ――――ありがとう―――― この世界には、約60億人もの多くの人がいる。 その60億人の中で、私とこなたは出会えた。 そして私たちは今――――‘辛’さが‘幸’せになった。 「こなた」 「何?かがみ」 「もうこなたのこと、離さないわよ」 「望むところだよ、かがみん♪」 わたしの目にうつるもの。 それは、泉こなた。 ――――最愛の人。 うつるもの-Oath of Eleven-へ続く コメントフォーム 名前 コメント b(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-01-01 23 49 50) 月は太陽の光をうつして輝く... つまりそういうことか -- 名無しさん (2021-01-24 18 21 31) やばい、感動してしもた…。 -- 名無し (2010-05-16 07 41 58)
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磨き上げられた清潔な病院の廊下からは、硬い、非人間的な感触がした。 どこでも清潔で、明るく、消毒の匂いがする廊下、人工的な空間。 冷たい音をたててを歩きながら、私は病気がちだったという母のことを、一瞬だけ想起した。 死んで行ったもの、死に行くものはいつだって美しい。 倒れた篝さんは無事なのか。 私は、人間が、私の母のようにあっさり死ぬことを知っている。昨日まで元気だったのに、急に……。 だが生きている私達ときたら、命を助ける消毒の匂いすら、嫌なものだと思ってしまう、やれやれ、だぜ。 篝さんが倒れて病院に運ばれた、という情報だけで、どんな病気なのか、何があったのか、私は知らない たどり着いた治療室の前には困り顔の初老の人が居て、篝さんの母親かと思いきや、その人はアパートの管理人だった。 「あなたは?」 「浅見篝の親友です」 「ごめんなさいね、浅見さんの手帳に書いてあった電話番号、貴方しかなかったから……」 そういえば、私は学校での篝さんを知らない。 「いきなりアパートで倒れてねえ、一緒に救急車に乗ったけれど、家族と連絡が取れないのよ。貴方、浅見さんのお友達よね? ご家族の連絡先は分かる?」 私は首を振り答えるしかなかった。 「残念ながら……」 篝さんのことを、私は余り知らない。 「困ったわね」 私達の間にきまずい沈黙が下りた。私は年の離れたアパート管理人と話すべき話題を持ち合わせていない。なんせおたくだから、一般的コミュニケーション能力など皆無なのだ。 「根を詰めて何かやってたけど、倒れちゃうなんてねえ……ご家族の連絡先も分からないし、若いのにこんな風で……あの子と、仲良くしてあげてね」 管理人さんは、まったくの他人である篝さんを哀れんでいるようだった。 礼儀正しい優しさ、私は管理人さんに好感を抱いた。 そこからは沈黙も気まずくはなくなり、やがて病室の扉が開き、出てきた篝さんは私を見て、ニッ、と笑った。 「来てたのか、いずみん」 「篝さん、心配しましたよ」 「大丈夫なんですか?」 篝さんが真剣な顔をした。 「聞いて驚くなよ、私の病気は──」 「過労だ」 篝さんが噴出すように笑う。 「いやー、びっくりしたの何の、サラリーマンでもないのに、まさかこの年で過労で倒れるとは思わなかったよ。こなかがのために倒れたとあったら、本望ではあるけどな!」 私がそんな事を言う篝さんに何も言えずに呆然としていると、いきなり管理人さんが立ち上がり、篝さんを怒鳴りつけたつけた。 「こんなお友達にまで心配させて、そんな事しか言えないの! 少しは、反省なさいな!」 管理人さんの声は静かな病院によく通り、清潔な床に反響した。篝さんはまったくの他人にいきなり叱られて、やや面食らったようだった。 でもすぐに真面目な顔になって、頭を下げてから篝さんは言った。 「心配かけてすいませんでした。泉も……。でも私は、これしかない、と思うことを今やってるから、やめないし、後悔しない。だから、倒れないようにだけは気をつけます、今後」 「だけって……」 「ほんと、悪いと思うけど、私にはこれしかないから」 篝さんにふざけた様子はない。 下げた頭をあげて見れば、そこにあるのはどこまでも真っ直ぐな眼だ。 管理人さんは、もうそれ以上は何も言わず、無事も確認できたので、仕事もあるので帰ると言った。 私たちに止める理由はない。 そして帰る前に、管理人さんは私に尋ねた。 「あの子、何にそんなに打ち込んでるの?」 私は、ssです、などとはとても言えなかった。 『レイディアント・シルバーガン』 病院の外に出ると、夜の風が私達を歓迎する。心底から冷える冬の夜の風だ。そんなに歓迎するなよ、人気者って辛い、具体的には軽装で来たのが悔やまれる。 「上着貸してやるよ」 「え、でも」 「私がぶっ倒れたせいで急いで来たんだろ、ほら」 強引に着せられた上着からは、篝さんの匂いがした。 夜風にポニーテールをなびかせた篝さんは、だいぶ痩せたその横顔で、どこか遠くを見ているようだった。 私は、篝さんを止めないと、と思う。 「篝さん、ゲームは作り終わったのに、倒れるほど何してたの?」 うーん、と困ったように唸りながら、篝さんは空き缶を拾って駐車場脇のゴミ箱へ投げた、見事なホールインワン。 「私、思ったんだけどさ、みんな、そんなに時間割けないと思うんだ。ゲーム作るのって、やっぱ時間がかかるから。だからもうちょっと手軽で、流行って、なんかいいものないかなーって、思ってね」 「見つけたの?」 私の声はきっと、私たちに吹き付ける風よりも低い温度だっただろう。 だって、この人は……まだ気づかないのか? 嬉しそうに語る篝さんの声色は、私の気を滅入らせた。 「動画が流行ってるじゃん。ニヨニヨ動画。今、とりあえず有名ジャンルの動画作っててさ、そこで得た技術をこなかがに還元すれば、またこなかが動画が増えると思うんだよね。結局、立ち絵素材が豊富だから、ニヨニヨの動画も流行ってると思うんだけど、ほら、板に投下されてる、今日の小なみ、とかあるじゃん、あれを動画にしてアップするとかさ。なんとかこなかがを盛り上げて」「篝さん」 私は、体を壊すほどの篝さんの愚かさが、まったくの無意味だと篝さんに告げなければいけない、と思った。 いい加減、眼を覚ますべきなんだ。我々は。 「もう、こなかがは終わりなんだよ、動画なんか作ったって、誰も見ないし、誰もついてこない。篝さんは幻影を追いかけてるだけで、現実がぜんぜん見えてないよ。もう十分、こなかがはその役目を終えたのに」 こなかがは、その役割を終えた。 それが真実じゃないのか? 篝さんはそんな私の言葉を聞きながら、夜の病院の駐車場のさらに向こう、車道を流れる車のランプを見ていた。光の河、遠い場所を見る表情のままで、篝さんは私に言った。 「終わりってのは……誰が決めるんだ?」 熱のある、声だった。 「そんなの、もう、誰がどうみても終わってるじゃん、理屈じゃなく」 「終わってない。全然、終わってないよ」 篝さんが私の方を振り返ると、その眼には狂気に近い光が宿っている。 「私が終わらせない、私はまだ、すべてをやり尽くしてない、手はまだある。私たちには、やり残したことがある」 「動画なんか作ったって、誰か参加すると思ってるの!? ゲームだって誰も参加しなかった、動画だって同じだよ、無駄だよ、『流れは止められない』!!」 「動画や、ゲームや、楽しいことをしてれば人は集まってくる。動けば、走れば、人はついてくる」 「冷静に周りを見てよ、篝さん」 私は、狂気に満ちた篝さんの目を見返した。 「走ってるのはもう、篝さんだけだよ」 私の言葉が夜の風に流されて消えるまで、篝さんは黙っていた。 やがて篝さんは、シルバーガンの台詞だけを呟く。 「しかし、世の中が移り変わっていっても…変わらないものが一つだけあるはずだ」 いきなり、篝さんは私に背を向けた。 「篝さん!」 「私には、まだ道が見えてる。動画ジャンルはまだ流行ってる、そこにはまだ、熱を持った奴等がいるんだと、信じたい」 篝さんは夜の暗がりに消えた。 ──私的代弁者:「我々はもう一度考え直すべきです。皆さんにもわかっているはずだ」 ……… 数日が過ぎ、かがみの部屋。 私が篝さんとのことをかがみに話すと、かがみは少し首を傾げて私に言った。 「それはもう、止まるまで放っておくしかないんじゃないか?」 かがみの言うように、話して止まるような雰囲気ではなかった。 「う、暴走してるような感じだし、たしかに」 うーん、とかがみは迷ったように呟く。 「でもまあ、ss書く人も減ったわよねえ」 こなかが人口自体が激減している。 いや、でも同人誌を書く人や、ファン自体はまだまだ居る気がするし、そこまで残った人なら、そう簡単にはこなかがを捨てない筈だ。 それなのに、そういう人はBBSには寄り付かない、しかし、何故? 「そりゃあ、サイトなりなんなりで書けば安全だけど、BBSって変なことになったりするじゃない。面倒な事態が持ち上がったりさ。それに、ここまで人が減ったら、BBSでやってもサイトでやっても客の数変わらなくない?」 「うーむ、確かに。まさに終焉だよ……なのに篝さんは、どうしてそれが分からないんだろう?」 人の話なんか聞きやしない。 「でもさ、こなた、篝さんは何かいろいろやってるけど、私たちって何もしてないじゃない? そういう人間が止めたって、説得力がないんじゃないかな。ただ外野から、古いジャンルにしがみついて、って馬鹿にしてるのと、一緒にならない?」 「う、かがみ厳しいね」 「法学部志望だから、公平じゃないといけないからね」 確かにそうだ、私は口だけで篝さんを否定する人になっていた、よくある漫画で出てくる悪役と一緒。 いまどきそんな事してるなんてありえなーい、とかいうやつ。 そうなっているという自覚がしかも、かがみに指摘されるまでなかった。暴走している篝さんを止める、という大義名分のせいで。 「なに本気で凹んでるの?」 「反省してるのだよ、かがみん」 かがみはアホ毛が萎れた私にどこまでもクールに言う。 「そういうの、似合わないわよ」 「反省が似合わないって、考えなしの馬鹿じゃん、それじゃあ」 「あら、違うの?」 「ほんと厳しいね、かがみん」 「優しくしてほしい訳?」 「いや、猫撫で声のかがみんとか若干気持ち悪い、金魚相手の時のかがみんとか」 「殺す」 ぎゃーぎゃーとかがみと話しながら、私はふと、こなかが全盛時代のss書きの人々はどうしているのだろう、と思った。 「メッセのアドレスは登録しっぱなしなんだし、話してみればいいんじゃない? 最近は話してないけども」 「うん、なんでこなかがを書かなくなったのか、とか聞いてみる」 私は、サインインしていた、かつてのこなかがss書きの一人、シゴ子さんに話を聞いてみることにした。避難所の番号が、H5-455だからこういう名前、だそうな。 「こなかがssを、書かなくなった理由?」 455さんは、聞けば簡単に教えてくれた。 「感想が、少なくなっていったから……かな」 シンプルな理由。 「こんな事を言ったらね、いろんな人に怒られたんだ。見る専にも、ss書きにも」 感想乞食、感想は強制するものではない、私はGJだけでも十分、欲張りすぎ、etc……。 「たぶん、私が弱いから悪いんだとは思うんだ……でもね、自分の書いたものに自信がある訳じゃないし、『感想がかえってこないと、人格自体を否定されている』ような気になっちゃうの。もちろん、そんな風に思っちゃだめってわかってる。でも無理なの、ほかの人はたくさん感想貰ってたり、『熱』のある感想を貰ってるのに、自分のssだけ、GJが二回だけだったりとかするとね、心が折れちゃうの、ポキン、って」 「それは、他人と比べちゃうってこと?」 「だってそりゃ、比べちゃうよ、どうしても……。自分のssの感想はあんなだけど、他の人の感想はあんなだったとか、すごく、凄く気になるよ。ss書くのってとっても時間がかかるもの、凄くがんばって書いて、GJ一つで流されたら、すごく、すごく悲しい。だからまるで『悲しむためにss書いてる』みたいになっていって……書けなくなっちゃった」 素直な言葉、それだけに、私にとって455さんの言葉は重かった。 「篝さんは、感想なんて気にしないって言ってたけど……」 「そりゃあ、篝さんぐらい書けたら平気なのかもね。それにあのひとは、根拠があろうがなかろうが、自分に絶対の自信のある人だから……でも私はそうじゃない、『感想がほしいの』そう思うこと、言うことは、本当に悪いことなの?」 そして、今のこなかがBBSでは感想は貰えないという訳だ。 私は、やはり455さんの物言いには違和感を覚えたけど、その違和感の正体は分からなかった。 他のss書きにも話を聞いてみる。 H4ー53、へいしさん、と呼ばれているss書きに話を聞いてみた。 「こんだけ年月たったら、書きたいことだって書きつくすだろ、そりゃ」 へいしさんの物言いも、シンプルだった。 「俺がこなかがで書きたいものは全部書いた。だから書かなくなった。そりゃ、アイディアが浮かぶこともあるが、結局、BBSのルールじゃ『無茶』が出来ない」 「無茶?」 「こなみがスタンド能力に目覚めたり、巨大ロボットに乗ったりするようなssはノーサンキューだし、昔書いたちょっと黒い感じのssも、bbs的にはあんまりよくなかったりするだろ。それが悪い訳じゃないが、そういう窮屈な場所でいつまでも書かなきゃいけない理由はない。かがりが大学の法学部で水野蓉子と出会う、とかいうssが脳裏をよぎったりもするが、BBSとしては微妙だろ。だからこなかがBBSは、滅ぶべくして滅ぶというか、単純に役目を終えただけだ。俺はむしろ、そっとしておけよ、と篝に言いたいね」 「へいしさんの中では、こなかがBBSは終わってるってこと?」 「そうだ。『こなかがは書き尽くされた』もう研究され尽くしている。それでも続けるならオリジナル要素や、自由度を望むしかないが、BBSはそういう場所じゃない。こなみとかがりがいちゃいちゃしてて萌えるssが見たいなら、保管庫の中を探せばいい、『新しく書かれたものは、どこかでもう書かれたもの』だろ?」 本当に、そうかな? 過去と内容が被るからって、本当に意味がないのかな? でもへいしさんは、自分が正しいと信じて疑わないようだった。 私はメッセからサインアウトする。 「うーん、かがみん、時代はこなかがに厳しいねえ」 「厳しいっていうか、自然な流れって気がするけど……」 「感想がないと、悲しいし、辛い、かあ……」 「まあでも、普通の話よね」 私はかがみが好きだけど、それは何かの見返りのためなんだろうか。 確かに、かがみが私に冷たかったら、私は凄く凄く悲しい。 自分の存在を否定されているみたいに感じる。 でも、でも……。 それでも私は、かがみを嫌いにはなれないよ。 「こなた?」 ポッキーをくわえたまま首を傾げるかがみは可愛い。 何度だって言いたくなる、かがみは可愛い。 ……可愛い。 「感想だけが全てじゃない、そう思いたいけど……」 「まあでも、書くも書かないも自由だし、別にいいんじゃない? 感想が貰えないから書かないって、分かりやすくていいじゃない」 「うん……」 書くべきことは終わった。 そんな風に割り切れるものなのかな。 かがみから得られるものは終わった、とか思える時は、私には永遠に来ない気がする。 私はずっと、かがみが好きだから。 篝さんと同じく、私は愚かだ。 だけど篝さんと違うのは、同性同士の恋愛にかがみを巻き込まないように配慮できることだ。 好きだけでは、生きていけない。 それにもし、この想いを告げてかがみに拒絶されたら、私は耐えられない。 「こなた……」 不意に、どこか呆然とした様子でかがみが呟いた。 「どうしたの?」 「篝さんが、2chに晒されてる」 篝さんは、どこまでも愚者であることをやめない。 私は……。 ……… ──無知な商売人:「創造者よ立ち上がれ!この金を生む業界は我々の為にあるのだ」 ──道理を理解する者:「あんた、正気なのか?自分のやっていることがわかってるのか?」 篝さんがニヨニヨ動画で晒されるようになった経緯は、理解不能な複雑怪奇なものだった。 とにかく、あらゆるところに悪意が溢れていた。 そして篝さんは、動画を作るのをやめた。 完全に、動画製作者を取り囲む政治的事情のせいらしかった。 「一度さ、ジミーさんもへいしさんもシゴ子さんもさ、全員で篝さんに会ったら? 篝さんが心配だし」 かがみはそう言う。 私達はかがみの提案に従い、篝さんを囲むオフ会、みたいな感じで集まることにした。 連絡をすれば篝さんは何事もなかったように、「お、私がこなかが動画を作るの、手伝ってくれるの?」とだけ答えて、私は……嫌な予感がした。 ……… 都内某所で集まった私達の間には、どこか微妙な空気が漂っていた。 こなかがはもう私達には関係がなく、そうなると──私達はどこまでも他人だから。 ただ、篝さんだけがその空気を読まなかった。 「みんな元気そうじゃん」 とパーカーのポケットに手を突っ込んだまま、篝さんは言った。 「篝さんこそ、元気なの? だいぶ、晒されたみたいだけど」 「あー、あれね」 篝さんは、苦笑してみせた。 「なんつーかさ……時代に取り残されたのかな」 恥ずかしそうに頭を掻いた篝さんの目は、未だに濁らない。 「人気ジャンルだっつーから、魂を持つ人がいるんだろーな、って思ってたんよ。でもたぶん、魂なんて言ってんの、私だけだったんだな、って。みんなさ、麻雀やネトゲしてて、創作者の集まりでも創作の話しねーし、なんだろうな……」 巨大なジャンルに触れた筈の篝さんは、何故か疲れた顔をしていた。 「再生数が多いとさ、神みたいにあがめられるんだよ。私が作品の話をしたらさ、王様みたいにふんぞりかえってる奴が言うのさ、お前のしてほしい評価を言ってみろって。プロの作品としての評価か、同人としての評価か、個人の趣味としての評価か、って。もう質問の意図も態度もわかんねーけど、なんか傲慢な態度だったよ。だから私は事実として同人だから、同人としての評価を聞いたんだ」 「どうなりました?」 「句読点を多くしろ、ってさ。死ぬほど、どうでもいい批評だったよ。句読点で面白さの本質も魂も変わりゃしねえ、でもそのことより、そういう句読点みたいなどうでもいい評価をさ、周りの取り巻きみたいな奴らが『さすが、ためになる批評だねえ』って褒めそやすんだよ。タイトルのつけ方とか、紹介文の書き方とかさ、中身の話をしやがらねえ。ひたすら、外形の話、再生数を増やすための話しかしなかった……」 篝さんが、珍しくため息をついた。 「なんつーかな…………面白さって眼にみえねえから、眼に見える再生数の話しか信じないし、出来ない、そんな時代になっちまってたんだな……」 石のような物体は言った。見えないものが見え、聞こえないものが聞こえるのか、と。 篝さんは、疲れ切った声で言う。 「『人間は、物語の表面しか楽しめない』、熱い三流なら上等だ、って有名な麻雀漫画が言うだろ? でも実際、熱い人間に会ったら、その意味を忘れちまう。腹が立つのはさ、斑鳩の二次創作してるやつが、再生数多い奴に良いように言われてるんだよ。句読点男が、本当に作品を良くしたいなら、俺が指導してやる、とか、俺は元プロ的なことをやっていた、とか吹きまくってさ、みんなそれにひれ伏しちまう。句読点如きの話しか出来ない奴にだ。そうじゃない、斑鳩ってのはそうじゃねえだろ!? 何百万本売れようが、RPGなんて見向きもしない連中が作った、最高の魂を持ったSTGだろ!? 数じゃねえ、売れ行きじゃねえ、たとえプロに、神様のようにあがめられるプロに……大江だろうが富樫だろうが京極だろうが賀東だろうが、だ! 誰に文句を言われても曲げねえ、曲がらねえ! そんな意地と意志と魂だけが価値を持つんだ、それが信じられない人間に、斑鳩を語る資格はねえ!」 「ずいぶん、好き勝手吼えるじゃないか」 と、冷ややかな声を浴びせたのは、へいしさんだった。 「要はあれだろ? 動画の世界でちやほやされなかったから拗ねてるだけなんだろ? それで切れて、動画つくりもやめて愚痴か? 底が割れたな浅見篝」 「てめえみてえな下種と一緒にすんなよ」 かがりさんはパーカーのポケットに手を突っ込んだままへいしさんをにらみつけ、へいしさんは眼鏡の奥の目を、篝さんを侮蔑するように冷ややかに細めた。 侮蔑を恐れない、汚辱を恐れない、孤立を恐れない、だから、篝さんはへいしさんの侮蔑に全く怯まずに言った。 「私は、人を増やそうって数に頼る発想や、BBSを盛り上げようとか、そういう考えが誤っていたと知っただけだ。仮にもう一度、こなかがが人気ジャンルになったからって、何なんだ? その結果が生み出すものに、本当に価値があるのか? それをもう一度考える必要があるのを知った」 「はっ、言い訳乙。お前はさ、自分の慣れ親しんだこなかがBBSが盛り上がって、ちやほやされたいだけなんだろ? 誰もお前のssなんて待ってねーし、読まねーよ、誰も、お前なんて求めてない。『こなかがなんて、もう誰も求めてない』んだよ!!いい加減分かれ!」 ──正しき主観を持つ者:「この最悪の市場を見てみろ、これが自業自得の現状なんだよ」 人々は去った。 誰も、もうこなかがを待っていない。 管理人が去り、職人も去った。 全ては消え、ただこなかがBBSという荒野だけが残った。 その荒野の真ん中で── ──篝さんは笑った。 「関係ねーよ」 理屈で負けて怯むなら、魂は要らない。篝さんだけが私たちの中で唯一、魂を持っていたのだ。 「こなかがはもう、時代じゃねーんだ、ってか。そうかもな。だがSTGが時代じゃなくなっても、それでもシルバーガンはそこにある。誰が求めてるとか、時代がどうとか、関係ねー、関係ねーよ。私は私のために、私の信じるもののためにssを書く。時代が読める賢いお前らにはわかんねーだろうが──私には、意地がある」 シルバーガンで、私達は石のような物体を倒せなかった。 そしてシルバーガンの結論は、かつて感動したゲームらしいゲームのクローンを再生産していくこと、だった。 井内ひろしは言っている。 これは始めから決まっていたこと… そう、幾度となく繰り返されていること… 時代にとり残された私にできることは… 再びゲームを再生させること… そう幾度となく繰り返されていること… 私はゲームがゲームらしかった頃のクローンを作る… ゲームがゲームらしく生き残るために… 長い時間をかけて、再び創造空間は発展していくだろう… そして我々が同じあやまち(切り捨て文化の道)を繰り返さないように、祈りたい… 同じ志を持っている数少ない経営者、販売者、開発者、ゲームプレイヤー達に祝福を… 「シルバーガンの結論じゃ、石のような物体は倒せなかった。斑鳩で石のような物体を倒せたのは、死と引き換えだ。一度、ゲームは死ななきゃならない。こなかがBBSも同じだ……。新しく、仕切りなおさなきゃいけない、だから」 篝さんは言った。 「私が、こなかがBBSを終わらせる」 へいしさんが鼻で笑った。 「何言ってんだお前、薬でもやってんのか? さっきから一人で盛り上がって、痛いんだよ!! いい加減現実を見ろメンヘラが!!」 「なんだそりゃ、やっすい言葉だな」 篝さんに、へいしさんの言葉は響かない。 『熱』のない言葉では、篝さんには届かないのだ。 「私達が自由を見れるかどうか、もうすぐ分かる。4月25日、私は私にとって終わりのssを書く。こなかがBBSを終わらせるためのssだ」 「うぬぼれんな、お前が百万本ssかいたって、何一つ終わりはしない」 「タイトルは決まってる、この状況ならこれしかないだろ? このタイトルしかない。全てを終わらせるss、そのタイトルだ」 いいから聞け、と、篝さんは言った。 「レイディアント・シルバーガン」 そうだ、篝さんならそうする、そのタイトルをつける。限りなく特別なSTG、しかし。 「私は、帰る」 「はあ?集まったばかりだぞ!」 「あんたら、私と話すことなんかあるのか? 私にはもう、私の意地と魂しか関係がない。だから、あんたらと話す意味はない」 「篝さん!」 それは、間違っている。一人になっては駄目なんだ。どんな時でも。 「いずみん、私を止めたきゃ、魂を示せよ、それしか、道はない」 「篝さん!待って!」 篝さんは、一度も振り返らない、立ち止まらない。 あとにはただ、取り残された者達だけがいた。 「ほんと、痛い奴は困る。自己陶酔のナルシス」「ねえ」 へいしさんを遮るように、それまで黙っていたかがみが口を開いた。 「みんな、このままでいいの?」 「はあ?別に浅見が何書こうが知ったことじゃねえよ。それより、これからカラオケに」「本当に?」 かがみは、もう一度、『みんな』に問う。 「『みんな、本当に、こなかがBBSがこのままで、いいの?』」 かがみの問いに、一瞬、全員が沈黙した。 全員、かつてこなかがを、こなかがbbsを、愛した人だったからだ。 「篝さんは、4月25日に、最後のssを投下するって言ってるけど、その日に、何かできることがあるんじゃないかなって」 「柊」 と、へいしさんがかがみの言葉を遮った。 「お前らは、見る専だから気軽に言うんだ。『俺たちはもう、他の楽しいことを見つけてる』。こなかがに割く時間はない」 455さんが目を逸らす。 「篝さんと被って、感想が貰えないと、悲しいから……」 ジミーさんは天を仰いだ。 「もう何も思いつかない、こなかがは書けんよ」 「そう……なら、仕方ないね」 所詮、ネットの片隅の出来事。 こんな下らないことで大騒ぎして、私たちは愚かだ。 たとえば、高校時代の青臭い勘違い。 仲のよい同性の女の子を好きになったこと。 時が過ぎれば、綺麗な思い出に変わる。 本当に? 「こなた?」 「ちょっと、頭を冷やしてくる」 私は休日の街中を歩き出す。 篝さんは、4月25日に終わりのssを投下するという。 私たちにできることは……。 終わらないと示すためにssを投下する? だが、誰もそんなことはしない。もう、こなかがは終わっている。 私は最後の決断をするために、ゲームセンターに向かった。 レイディアントシルバーガンをするために……。 前 レイディアント・シルバーガン 2 コメントフォーム 名前 コメント 私は2010年になってかららきすたを知り、今日初めてココに来ました。 どのSSも愛情に溢れていて、おかげで、かがみとこなたを原作以上に好きになりました。 本当に良いものを読ませて貰いました。感謝です。 -- 名無しさん (2010-03-27 13 28 45) この作品に書かれていることは限りなく現実に近いのですよね・・・ かつては共に楽しんだやつらもここにはいない・・・ 作者様はこの状況に区切りをつけるおつもりなのですね・・・ 4月25日・・・ 頑張って下さい。 -- 白夜 (2010-03-25 01 23 07) オリキャラだけども個人的には篝さんかなり好きかも ていうか続きがめっちゃ気になる -- 名無しさん (2010-03-23 23 05 44) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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「いやー、大丈夫だよ!ほ、ほら!回りに人もちらほらいるしさっ!」 ホントは人なんていない。私達だけが歩く夜道。 「それにさー、いいよって言われると逆にさ・・・ねぇ?」 頭が真っ白な中奮闘する私。内緒にするって決めたんだ。これ以上、かがみに迷惑は、かけたくないんだ。 「・・・バカ。」 「え?バカって?」 そう言い終わらないウチに、私は包まれる。春の陽気のような温かさ。私に安らぎを与える匂い。心地よい空間。 思考が現状についてきてくれない。本当に真っ白。 「あんたの事よ・・・私に恥かかせる気?」 やっと分かった。私は今、かがみの腕の中。だからこんなにドキドキするんだ。 柔らかい感触。優しい雰囲気。全てが私をおかしくさせる。 「え、あぅ・・・」 「ねぇ、こなた。これでも・・・ぎゅってしてくれないの?」 糸が切れる。作り物の私が壊れる。我慢しないでいいんだ。この想い、止めなくて、いいんだ。 「かがみ・・・」 何も言えない。気のきいたセリフも、ムードを作る言葉も、出てこない。 だから、3つの音を繋いだ単語を口にして、思いっきり抱き締めた。 「全く。待ちくたびれたわよ。あんた、いつまでたっても言ってくれないんだもん・・・」 「・・・ごめん。」 「い、今だって、ホントは凄く恥ずかしいんだからねっ!」 「あぅ・・・」 「でもね・・・私は、今幸せだよ。こなたは?」 ホントにバカだな。恐がって、怯えて、動けなかった私。想いを届ける事さえしなかった私。 でも、今なら言える。これはかがみへのお礼。勇気を出してくれた、私に勇気をくれた、愛しい人への大切な想い。 「んー、やっぱりかがみは私の嫁!」 「言うと思った!」 笑い合う薄紫と深青。交われば何色になるのかな?何色にだって慣れる。全部私達しだい。 「ずっと一緒だよね、私とかがみ!」 「・・・うん!」 未来は赤色?黄色?それともオレンジ?分からない。だって、これから始まるから。私とかがみの第2章。 さぁ、始まるザマスよ!
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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『騎馬戦・その2』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 不意にみさおの周囲の景色が歪む。いや、正確には彼女の見ていた外の世界が。 (あ、あれ?) 彼女には何が起きたのか把握できない。ただ、鍛え抜かれた肉体が非言語レベルでの警告を発していた。ここは危険だ、逃げろ、と。わずかに残された理性が行動を開始しようとする。しかし圧倒的な多幸感の前に、たちまち抵抗も空しく押し潰されてしまう。 (なんか、すっごくいい気持ちだ……) そのまま彼女の意識は闇に呑まれた。 そして。 みさおの顔から表情が消える。眼に獣のごとき紅い光が宿る。筋肉という筋肉にかつてない緊張が走る。身体が三割ほど膨れ上がる。 「……Va……」 そこに存在しているのは、かつて日下部みさおと呼ばれた何かだった。 ◇ 「ナイスフォロー、さすがみゆき」 間一髪でつかさがみゆきにキャッチされるのを見届けたかがみは、改めてみさおを睨みつける。 「今度はこっちの番よ。日下部、覚悟はできてるんでしょうね」 「Va?」 もしかがみが怒りに我を忘れていなければ、みさおの異変にいち早く気づくことができたかも知れない。こう見えても中学以来、五年近くの付き合いである。彼女がやっていいことと悪いことの区別がつく人間だ、というくらいは理解していたはずなのに。全てが終わってからしばらくして、かがみはそのことに思い至ることになるが、それはまた別の話である。 首から上は激情に支配されていたかがみだが、肩から先は極めて冷静だった。慣れ親しんだドグファイト・スイッチを指だけでオン。HUD(ヘッドアップディスプレイ)の表示はガン・モードに替わる。自動的にロックオン。だが最適射撃体勢をとる前にみさおが動く。かがみはただちに戦闘機動を開始。大推力にものをいわせて急旋回。逃げるみさおを追撃する。照準環に入る。射程内。トリガーを引く。みさお、右にブレイク。HUDの残弾表示の数字があっという間に減る。命中しない。 「くっ」 思わずかがみは奥歯をかみ締める。やはり高機動能力では向こうが一枚上か。 後下方に敵騎、の警報音。反射的にブレイク。大G加速。あざ笑うようにみさおが下方を高速ですり抜けていく。照準する余裕もない。急ロール。距離を取って体勢を立て直す。 かがみはストア・コントロール・パネルをちらりと見る。RDY GUN、RDY AAMⅢ-4、RDY AAMⅤ-4、RDY AAMⅦ-6──対空兵装は完全武装。ミサイル発射レリーズに指をかける。心に迷いが生じる。これを押したらもう引き返せない。 不意にインカムの呼び出し音が鳴り響く。 「はい、こちら柊」 『桜庭だ。お楽しみのところ悪いが、少し話がしたい。すまんが運営席まで戻ってくれ』 「でも……」 『日下部の相手なら、あとでいくらでもさせてやる』 「話というのは」 『なに、ちょっとしたことさ』 まるで世間話でも始めようといわんばかり。だが、かがみは、この桜庭ひかるという教師がある種の韜晦癖の持ち主であることを知っている。 (暗号化通信でも話せないヤバイ内容ってことか) FC(射撃管制)レーダーがみさおを捉えている。HUDにキュー。ブリップの脇にHシンボル。高速接近中の表示。 (つかさの容態も気になるし。しかたない、一度戻るか) 「了解。戻ります」 かがみ騎、MAXアフターバーナー。戦場から離脱する。最高速度で劣るみさお騎は追いつけない。 ◇ 一方、一対四で防戦中だったこなたにも異変が起きていた。 「つかさ、つかさ、つかさ、つかさ……」 何も見えない。 何も聞こえない。 何も感じられない。 こなたの脳内でリフレインされる、つかさが吹き飛ばされる瞬間の映像。 「つかさを、返せーーーーーっ!」 種が、割れる。 「な、なんだ。急に動きが──」 圧倒的優位に立っていたはずの四騎は、突然のこなたの反撃に対応し切れない。 「ハルカ、右にブレイクッ!」 「へっ?」 坂本美緒の警告と迫水ハルカのハチマキが奪われたのは、ほぼ同時だった。 (なんだあいつ、反応速度が今までとは桁違いだ) 危険を感じた美緒は列騎に指示を飛ばす。 「智子、宮藤、一旦引いて距離を取れ。体勢を立て直して、ジェットストリームアタックをかける」 「了解っ!」 生き残った三騎は思い思いの方向に離脱する。 「お願いします、仇を取ってくださいよ~」 ハチマキを奪われリタイアしたハルカが、瓶底眼鏡をずり上げながら情けない声で叫んでいた。 スーパーフェニックスが吼える。こなたは姿勢を変化させずに美緒騎の後を追い上昇する──騎首をもたげることなく、対地水平姿勢のまま上昇増速。 「狙いはあたしか。ずいぶんと舐めてくれる」 こなたは六発の中距離仮想高速ミサイルを発射。美緒騎のMTI(移動目標インジケータ)上に仮想ミサイルの航跡が合成シミュレートされて表示される。 来るぞ。美緒はMTIからHUDに目をうつす。最初の五騎はこれで一方的に潰滅したのだ。 美緒騎、C組の新型高速ミサイルを発射。四発。これもシミュレート。ミサイル迎撃成功。その前に美緒騎は魔法障壁を展開しながら高機動回避に入っている。残りの二発の敵ミサイルはなおも接近、十秒で美緒騎に達する。美緒騎は騎首を敵ミサイルに向けたまま螺旋を描き、第一弾を回避。二発目を高速射撃で撃墜、瞬時に騎体を右にスライド、三発目にそなえて騎体をバンクさせずにジグザグ機動、こなたに接近する。こなたは逃げずに突っ込んでくる。真正面から。 突然、こなたはエアブレーキを開いて急減速した。速度を殺す。ダイブ。急降下。 美緒は目を見開く。こなたのふるまいは騎馬戦のセオリーからはずれている。 美緒騎、こなた上空を亜音速で通過。 一瞬、美緒はこなたを見失う。とっさに騎首を下げ、そのままロールせず順面のまま逆宙返り。美緒の頭に血がのぼり、視界が真っ赤になる。レッドアウト。思わずループ径をゆるめ、こなたを捜す。上後方に敵騎、の警告音。急反転上昇旋回。こなた、最大AOA、ガンサイト=オープン。上昇に移る直前の美緒騎をロックオン。もちろん実弾射撃はしない。ファイア。射程ぎりぎりでのこの攻撃は運営席の戦術シミュレータにより失敗と判定される。美緒騎、ただちに反撃。 急旋回した美緒騎はこなたの左後方に占位。こなた、アフターバーナー点火。亜音速から大G加速。すかさず美緒騎は騎首をこなたに向けて、振る。騎体がぐいと回転。ロックオン。自動射撃。射程外。短距離高速ミサイル発射。四発。こなた、突発的に一六Gをかけて仮想ミサイル群を回避。 「なんてやつだ──あいつは……泉こなたは化け物だ」 (作者:もう少し続けてもいいですか?) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『騎馬戦・いんたーみっしょん』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― こなた:……なんか、妙なところで引きになってますネ。 かがみ:話によると、作者の中の人があそこまで書いたら朝になってた、ってことらしいわよ。 こなた:あー、なんかわかるなぁ。深夜のテンションって、ときとして異常なものがあるけど、いざ朝になって見直してみたら『なんて恥ずかしいことしてんだ、私は』みたいな? かがみ:まあ、わからないでもないかな。でもそう言うからには、あんたもそういう経験とかあるの? こなた:そりゃぁ……(何故か頬を朱に染める)。ほら、昨日だって一晩中あんなことやこんな──。 かがみ:はいストーップ! アブない発言禁止ーっ! こなた:……むぅ、読者の人はむしろそっちの方を期待してんじゃん(ブツブツ)……。 かがみ:何か言ったか。 なんなら一度、拳で教育が必要か? こなた:えー、気を取り直しまして。なんかみさきちがヤバイ雰囲気ですよ。暴走? かがみ:こなたも種割れしてたしね(笑)。あ、それと桜庭先生が私のことを呼び戻したりしたのも、気になるといえば気になるわね。 こなた:なるほど、未回収の伏線がいろいろあるわけだね。これはやっぱり続編に期待でしょうか、解説者のかがみさん。 かがみ:誰が解説者だよっ。まあでも、確かにあのまま終わらされちゃ、演じてるこっちとしても後味悪いもんね。 こなた:ではそのあたりの期待感なども盛り込みつつ、上手にまとめていただけますかね。 かがみ:そこで私にふるのかよ。たまには自分でやったらどうなんだ? かがみ:いやまあ、そこはそれですよ、お代官様。あとでタンマリと山吹色のカスティラが……。 かがみ:いらねーよ。 こなた:じゃあ、こういうのは? (こなたがかがみの席に回りこみ、耳元で何ごとか囁く) かがみ:(耳まで朱に染めて)……ホ、ホントに? こなた:万事このお姉さんに、泥舟に乗ったつもりで任せなさいっ! かがみ:し、しかたないわね。今日のところはだまされてあげるわ。 こなた:一見不満そうに見えてそれでもきちんと役割はたしてくれるかがみ萌え。 かがみ:萌えって言うなっ! (コホン)では、今後を楽しみにしつつ応援していただければ、またなにか新しい展開があるかもしれないので、引き続き応援をよろしくお願いします。 こなた:では最後に、恒例のお約束のあれを。 かがみ:はいはい。では、せーのっ! ふたり:バイニー! (2008.10.16 都内某スタジオで収録) 坂本:うーむ、はたしてあたし達は次回も出番あるのだろうか。 宮藤:はいはいはーい。あたし実は、高良さんの胸にすっごい興味があるんです。 坂本:……宮藤、お前だけは出なくていいから。 宮藤:えーっ、なんでですかー? 坂本さん酷いですよ~! P:OH! ユ○カは、コナタのことが心配じゃないですか? Y:そ、そんなことないけど。でもあの、本当に大丈夫なのかな、これ? H:いや、だからさパ○ィ。あの戦闘に介入するなんて、無茶を通り越して無謀という気がするんだけど。 P:問題ありませーん。我らソレス○ルビーイングのガン○ムマイスターには、この地球上の争いゴトを根絶する、という大儀があるのデ~ス! M:……いつに間に、そんなことに……。 (Fin) コメントフォーム 名前 コメント まてwwこれはなんなんだwww もはやらき☆すたじゃねぇww -- 名無しさん (2008-10-25 13 46 16) カオスだがやっぱり面白いw これからも枕元で毎晩囁いてみますので、これからも楽しい作品お願いします。 GJ!! -- にゃあ (2008-10-23 04 41 48) いろんな意味でカオスだ… -- 名無しさん (2008-10-19 02 13 36)